2007年3月31日 (土)

赤ペン先生

伝言ボーイの続き…

次の日の開店前。

僕は、昨日より早めに呼び出されて、オーナーつきっきりで音合わせのリハーサルをしていた。

どうやら、昨日の演奏に、やはりあれからまたトサカ女から注文がついていたらしいのだ…。

トホホ…。

「先生、まだまだ音が大きいみたいですねえ。」

「ええ?そうなんですか?
自分ではだいぶ小さくしたつもりなんですけど…。」

「いや、まだ大きいです。」

「けど、あれ以上小さく歌うと、モニター(演奏者用のスピーカー)があるわけじゃないから、店の雑音に負けちゃって自分自身何を歌ってるのか分からなくなっちゃいますよ…。」

「モニターとかそういう難しいことはよく分からないけど、とりあえずとにかく今、試しに歌ってみてくださいよ。」

「あ、はい。分かりました…。」

どうやらオーナーは音楽の事に全く詳しくないみたいだが、とにかく僕は言われた通り、昨日のようにスピーカーのボリュームを極力下げて、歌もかなり小さめに歌ってみた…。

ほんの~ 小さな出来事に~

愛は~ 傷ついて~ ♪

「ああ、まだ大きいですね。
先生、BGMですよ。」

ええ!?まだ?

もうこうなったら、試しにスピーカーの音量、全部切ってまおっと。

やけくその、生声、生ギターじゃ。(笑)

ほんの~ 小さな歌声に~

僕は~ 傷ついて~ ♪(笑)

「いや、もっと小さく。
もうほんと、ささやくぐらいでいいんです。」

はあ?

このオッサン、何言っとんねん。

トサカ女に何を言われたか知らんけど、2人とも絶対何にも分かってないわ。

こんなもん今はいいかもしれんけど、お客さん入ったら、お客さんの話し声と同レベルやぞ…。

何歌ってるか全然分からんやんけ!

それに、マイクとスピーカーがある意味もまったく無いし…。(苦笑)

そんで、それをさらに小さくして、ささやくようにやとー!

こんにゃろめー、バカにしやがってー。

あーあ、あほらし。

もうどうでもええわ…。

ほんの~ 小さな歌声に~

僕は~ 傷ついて~ ♪

「そう、それくらい!」

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

ボクハロボット、カンジョウハモチアワセテイマセン。

イツデモ、ゴシュジンサマノイワレルガママ…。(笑)

夜8時20分。

2日目がオープンして、僕は満員のお客さんがホステス達とたわむれる、にぎやかな店内で歌っていた。

もちろん、さっき試したミクロのささやくような声で…。(苦笑)

当然、こんなにぎやかな場所で、僕の演奏がお客さんにほとんど聴こえてるわけがない。

だって、演奏してる本人ですら、時折自分の歌が聴こえなくなるんだもん…。(涙)

あははは…。

もうこんなの、BGMでもなんでもない…。

お客さんの中には、音の出ないマイクに向かってボソボソとなにかささやいている僕を不審げに一瞬だけ見つめる人もいたんだけど、多分僕の存在に気付いていなかった人すらも何人かいるはずだ。(苦笑)

しかしそんな中、トサカ女だけは、昨日とは打って変わって僕を1回もにらみつけることもなく、機嫌良さそうに接客をこなしている。

なるほどね。

トサカ・オブ・ジョイトイは、初めからこういう状況を求めてたわけやね…。

・・・・・・・・・・。

って、

じゃあ、初めから俺を雇うなよ!!

有線流しっぱなしにして、ヒゲ生えたマネキンでも置いとけっちゅうねん!!

くっそー。

オーナーのおっさんも、トサカのおばはんに言いくるめられて、俺にこんな屈辱的な歌い方させやがって…。

もうー、2人とも、

先生を大切にしない奴なんて、大っ嫌いだ! (ゲド戦記より)

この後、妙にふっ切れた僕は、機嫌良く仕事しているトサカ女に少しでも復讐してやりたいと思い、ひとつだけイタズラを考えついた。

26歳のいい大人がするようなことではなく、何とも幼稚でバカバカしいイタズラなんだけど、どうしても今あの女を困らせてやりたくなったのだ。

それはどんなイタズラかというと、実は昨日の初日のリハーサルの時、有線放送のレシーバーをいじっているうちに、ある面白いチャンネルを見つけたので、それを僕の休憩の時間に間違ったフリをして流してやろうというもの。

さっそく8時30分、休憩時間になった僕は、有線のチャンネルを昨日見つけたそのチャンネルに合わせた。

まだボリュームを上げていないので、もちろん今は店内には何も流れていない。

あかん、緊張してきた…。

どうしよー、やっぱやめとこっかなー。

うーん…。

いや、たかゆき、やるんや。

どうせ、こんな仕事ずっと続けるわけやないんやし…。

さあ、勇気を出して、GOや!

僕は一気に有線のボリュームを上げた…。

その瞬間、にぎやかな店内に、ジャズでも何でもない、ひときわ違和感のある、ある「声」が流れる…。

「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹…。」

そう、僕は昨日、「アナウンサーがただひたすら羊の数を数え続ける」という何とも訳の分からんチャンネルを見つけてしまったのだ。(笑)

店内は、突然の予期せぬ出来事に一気に静まりかえる…。

そして、一呼吸置いて、波がかえすように今度は一気に店内は笑いに包まれる。

「あっはっはっは。なんやこれ。」

「キャー、めっちゃおもろいー♡」

お客もホステスもみんな笑い、「どうなっとんや?」と周りを見渡す。

そこで僕は立ち上がり、

「あ、すみません!間違えました!」

と大きな声で頭を下げる。

それによって、みんなはこれが僕のミスだという事を認識し、さらに笑いが起きる。

僕は慌てて機械をいじくり直すフリをして、さらにボリュームを上げる…。

「羊が13匹、羊が14匹…。」

「あ、すみません!」

笑いは、さらに爆笑へと変わる。

もうみんな、腹を抱えて笑っている。

さて、そんな、僕が仕掛けたこの一連のおもしろハプニングの間、たった一人だけピクリとも笑っていなかった人がいる…。

そう、それはもちろん…、

トサカ女。(笑)

初めに羊を数える声が流れた時、彼女だけはすぐに僕が原因だと分かったみたいで、ものすごい勢いで僕をにらみつけてきた。

きっと、自分の店の華やかなイメージを、こんな風におちゃらけた雰囲気にされたのが、ものすごい腹ただしかったんだろう。

僕はもう、笑いをこらえるのに必死で、次にもっとボリュームを大きくした時なんか、彼女は怒りで顔が真っ赤っかになっていた。

よし、目的達成。(笑)

さあ、

書き始めてみると思ってた以上にダラダラと長くなってしまった今回の思い出話も、ちょっと中途半端なこのへんでおしまい。

だって、こんな仕事すぐに辞めたるわと思っていた僕も、さすがに最初の約束だけは破っちゃいけないということで、結局1ヶ月間だけは何とか無難に与えられた仕事を勤め上げてしまって、この後別に大した事は起きへんかってんもん。

まあもちろん、僕のささやかな反抗期だったこの「羊事件」以降は、トサカ女との関係はもっとぎこちないものになっていったけど…。(笑)

あっ、そういえば、ひとつだけ気になった事がある。

それは、僕がオーナーに辞める事を伝えに行った時、

今までずっと僕に対して敬語だったオーナーが、なぜか急にタメ口になってた事…。(笑)

「先生、なんでやめるねん。やめんなや。」

「続けろって、先生よお。」

など…。

おそらく倍近くの年齢だから、突然のタメ口も全然構わないんだけど、タメ口やったらタメ口で統一せえっちゅうねん!

いらん所に無理やり「先生」って付けるから、なんかバカにされてるみたいやんけ!(笑)

ああ、もし俺が赤ペン先生やったら、思いっきり訂正したるのに…。

「先生、なんでやめるねん。やめんなや。」
          

        間違いです!(-50点)
正しくは「なぜおやめになるのですか。
     やめないでください。」ですよ。
   河野くん、ちゃんと学校で予習・復習しましょうね。

続けろって、先生よお。」
      

  バカタレ!(-50000点)
正しくは「おお、素晴らしきたかゆき大先生!
     あなたは今回、
     こんなに長い文章を頑張って書かれたんですね。
     読みやすかろうが、読みにくかろうが、
     
内容が面白かろうが、そうでなかろうが、
     ここまで来たら、そんなことはもう関係ありません。(笑)
     どうも本当にお疲れさまでした。
     これからも応援しておりますので、
     
ブログ頑張って続けてくださいね」 だろがい!
  トサカ女と一緒に、顔洗って出直して来い!

                        赤ペン先生より

おわりっ。

(なんだ?今回の話…。笑)

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2007年3月30日 (金)

伝言ボーイ

トサカ女の続き…

7時45分ごろ。

ママ(トサカ女)が一列に並んだホステスさん達の正面に座り、ミーティングらしきものを始めた。

店内は相変わらずの緊張感に包まれたままで、トサカ女は厳しい口調で初日の心得みたいな事をみんなに話している。

僕は自分の演奏の準備はすでにもう終わっていたけど、まだ何か準備をしているフリをしながら、普段なかなか見ることの出来ない夜の世界の裏側を、横目で聞き耳を立てて楽しんだ。

8時ジャスト。

ミーティングも終わり、ボーイさんなども含めそれぞれが各々の配置につき、ついにお店がオープン

僕としても、お店の歌手として歌うなんていうのは初めての経験だから、時計の針が8時を指した瞬間ものすごく緊張感が走ったんだけど、そんなにうまくオープンと同時にお客さんが入ってくるわけもなく、かといって誰かがしゃべっているわけでもなかったので、店内には妙な沈黙だけが流れていた…。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

あ、

あれ…?(汗)

俺、もう歌い始めたほうがいいの?

けど、お客さんもおらんのに歌ってるってのもなんか違う気がするしなあ…。

何だかこの沈黙に耐え切れなくなってきた僕は、近くに立っていたオーナーに、恐る恐るなぜかジェスチャー(笑)で

<僕は今歌うべきか?>

ということを尋ねてみた。

すると、オーナーもなぜか言葉を発さず、ただ静かに首を横に振る。

(どうやら、今店内では、無言をつらぬき通すのがブームのようである。笑)

そっか、やっぱり俺はお客さんが来てから歌い始めるわけやね。

まあよく考えたら当たり前のことかもしれないけど…。

トサカ女を含む女子軍全員は、さっきから黙ったまま店の入り口をじっと見つめている。

それにしても、いくら新規オープンの日だといっても今までいろんな所で宣伝してきただろうに、それでもお客さんってすぐには来ないものかなあ。

大丈夫だとは思うけど、万が一もしこのまま何十分もお客さんが入ってこなかったら、この店どうなっちゃうんだろうか…。

あ、あのー、

現時点でも、僕、この雰囲気かなり気まずいんですけど…。(苦笑)

そんな事を考えてる間にも、8時7,8分。

ついに、その時がやって来た…。

入り口のドアが開き、まだ出勤していなかったホステスさんがお客さんを一人引き連れて店に入ってきたのである。
(いわゆる、「同伴出勤」)

店内にも僕の中にも、一気に本物の緊張感が走る。

そして、

「いらっしゃいませ!」

という大きな掛け声と共に、

オーナーは僕の方を向き一度だけ小さくうなずく

さあ、たかゆき先生の出番である。

そして、僕のラウンジシンガーとしての初の仕事だ。

ドキドキドキ…。

よし、

いっちょやったるか!

さてこの仕事、いっても店内のBGM代わりの生演奏だからMC(おしゃべり)などは一切必要なく、僕がいつも歌っているフォークソングの中から自由に選曲して、決められた時間までただひたすら歌い続けるというもの。

(しかし、ジャズや洋楽なら分かるが、こんな豪華な雰囲気のお店にほんとにフォークソングなんて似合うのかなあ。
まあ頼まれて歌うわけやし、そんなことは俺が心配することでもないか。)

そんな中、僕が最初の曲に選んだのは、

チューリップの「サボテンの花」

この曲は、何年も前から路上で歌う時に必ずと言っていいほど一番初めに歌っている曲で(何でこの曲になったのかは覚えていないが…)、いつもはこの曲を基準にギターやマイクの音量を調整したりする上、発声練習代わりとしての役割も果たしている。

それに、長年1曲目として歌い続けていると、体にそれが染みついてしまっていて、まずこれを歌わないことにはどうも体がムズムズして、他の曲が歌いにくいのである。(笑)

だからこの店でも、自分をリラックスさせる意味にも、最初にこの曲を選んだ。

まずイントロ部分をギターで弾き、

そして、マイクに向かって歌い始める。

ほんの~ 小さな出来事に~ 

愛は~ 傷ついて~ ♪

よしよし、今日はまずまず声の調子もいいようだ。

歌い始めてすぐ、続けざまに続々とお客さんが入ってきた。

座席も少しずつ埋まっていく。

うわ~、お客さんも急に増えてきたー。

頑張ろうっと。

歌はサビにさしかかる。

徐々にリラックスして気合の乗ってきた僕は、ここぞとばかりに大きな声で熱唱する。

絶え間なく~ 降りそそ~ぐ

こ~の~ 雪のよ~に

君を愛せば よかぁった~ ♪

ふと周りを見渡すと、ほとんどのお客さんがこちらを見つめ、一緒に口ずさんだりしていた。

ほう。

やっぱりなんやかんやいっても、やっぱりみんなこういう曲は好きな年代やねんな。

これだけちゃんと聴いてくれると、俺も歌い甲斐があるっちゅうもんや。

ええがな、ええがな。

その時、ふいにトサカ女と目が合う…。

ん?

あれれ…?

あのー、

えっとですね、

もし僕の目が間違ってなければ、

彼女、ものすごい形相でこちらをにらみつけてるんですけど…。(大汗)

な、なんで…?

とりあえず恐いからすぐに目をそらす。

なんや、なんや、俺なんか悪い事した?

お客さんもこんなに喜んでくれてるのに…。

あかん、考えんとこ。

歌に集中しよ。

きっと、生まれつきああいう顔の人なんや。(笑)

とにかく、なぜトサカ女が怒ってるのかは謎のまま、僕は「サボテンの花」を一生懸命歌い切ったんだけど、曲が終わると、そんな僕の熱唱に対してお客さん達はみんな一斉に大きな拍手をしてくださった。

パチパチパチパチ。ヒューヒュー。

僕も、「ありがとうございます。」と言って、深々と頭を下げる。

そして、気になったので、頭を上げると同時にもう一度だけトサカ女の様子をうかがってみる。

・・・・・・・・。

あれ…。

まだにらんでるよ…。(苦笑)

・・・・・・・・。

そして、なぜかボーイさんを呼び付けてるよ…。

・・・・・・・・。

そしてそのボーイさん、今度はオーナーのもとに駆け寄って、何か伝えてるよ…。

・・・・・・・・。

はい?

一体、何…?

ああ、もう知らん、知らん。

わしゃなんも知らんよ。

だって俺はただ、一生懸命歌ってるだけやもん。

拍手ももらったし…。

よし、

もうあんなトサカおばけのことは放っといて、俺は自分の仕事をちゃんと全うしよう。

そう決めた僕は、この後も自分の思うようにフォークソングを熱唱しつづけた。

もちろん、トサカ女とは目を合わさないまま…。

そして2曲3曲と歌い進めるうちに、お客さんもどんどん増えつづけて、あっという間に店内は満員になった。

どうやらさっきまでの僕の心配はまったくの無用だったみたいで、初日から大盛況のようである。

結構、結構。

さらに、有難いことに、この後も1曲終わるごとに毎回のように大きな拍手が続く。

そして、8時30分。

1回目の休憩の時間がやってきた。

前回も説明したが、この仕事は途中に30分の休憩が2回あって、実質歌うのは1時間半だけ。

言い換えれば、休憩をはさんで30分間のステージが3回ある、といったほうが分かりやすいかもしれない。

とにかく8時30分になったので、僕は最後の歌を歌い終えると、ミキサー(音質や音量を調節する機械)でギターとマイクの音量をにし、(これまた前回説明したが、僕の休憩中は店内に有線放送を流すらしいので、)有線のボリュームを上げておいた。

有線はジャズのチャンネルに合わせてあるので、先ほどまでとは打って変わって、店内には軽快なジャズ音楽が流れ出す。

うん、やっぱりこの店の雰囲気には、フォークなんかよりよっぽどジャズのほうが似合ってるな。(笑)

そんなことを考えながら、僕はギターを置いて休憩のために店から一旦出て行った。

すると、なぜかオーナーも僕について店を出てくる…。

なんだ、なんだ?

あっそうか、分かったぞ。

これはきっと、さっきのトサカ女からオーナーへの謎の伝言ゲームについての話やな…。(苦笑)

「先生、ちょっと待ってください。」

「はい、なんでしょう?」 

「あのね、先生ちょっと大きな声で熱唱しすぎですねえ。」

「え…?
・・・・・・・・・・。
僕はただ、河野さん(オーナー)が前にいつも路上で歌ってるままに歌ってくれたら構わないっておっしゃってたんで、いつもと同じように歌っただけなんですけど…。」

「けどねえ、ここは屋外じゃなくて室内なんで、あんまり大きく歌われるとお客さんがみんな先生の歌ばっかり聴いてしまって、女の子達が会話が出来ないみたいで。
会話したとしても、音が大きいから、声が聞き取りにくいらしいんですよ。」

「はあ、そんなにですか…。」

「ええ。これは先生のライブっていうわけじゃなくて、あくまでお店のBGMとしての演奏をお願いしてるわけですからね…。
お客さんの拍手なんていらないわけですよ。」

「はあ…。」

「だから次からはスピーカーの音量も出来るだけ下げてもらって、もっと気持ちの方も抑えて歌ってもらっていいですかね。」

「あ、はい…。
じゃあ、次からそうしてみます…。」

・・・・・・・・・・・・・。

はあ・・・・・・・・・。

たかゆき先生、激しくションボリーンである…。(涙)

まさか僕の歌が、「うるさい」と思われてたなんて…。

僕はお客さんに対して良かれと思って、1曲1曲心を込めて歌ってただけなのに…。

そっかあ、それでトサカっちはあんな般若みたいな恐ろしい顔してたのか…。

あの伝言ゲームはそういう内容やったわけやね…。

はあぁ…。

けどなあ…。

俺、路上で歌ってる時は、絶対にお金を儲けなあかんから、いっつも心を込めて熱唱するクセがついてしまってるもんなあ…。

これは長年かけて体に染み付いてきたものやから、今さら気持ちを抑えて歌えって言われてもなあ…。

出来るかなあ…。

あーあ、今まで通りでええと思ってたのになあ…。

けどそやなー、BGMやもんなあ…。

難しいもんやなあ…。

この後の2ステージ、僕は言われた通りギターとマイクのボリュームをさっきより半分以上下げて、歌も感情を込めすぎずなるべく大きな声にならないように自分なりに心がけて演奏を続けて、とにかくなんとかこの日の仕事は終了した。

その間トサカ女の反応はどうだったかというと、

途中、あるお客さんが僕の歌を気に入ってくれたらしく、ボーイさんを通じて高級なウイスキーの水割りを差し入れしてくれたんだけど、その時だけはそのお客さんに対して、

「ねっ、ウチの先生お上手でしょー。」

と、いかにもしらじらしく心にもない事を言っていた他は、

…総じてやはりあまりいい顔はしていなかったみたいだ。(苦笑)

だって僕、どうしても何度か声が大きくなってしまった時、その度にまたジロリンコってにらまれたもん…。(涙)

うえーん、やっぱり恐いよー、トサカの親分!!

つづく…。

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「赤ペン先生」

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2007年3月25日 (日)

トサカ女

スカウト男の続き…

さてお仕事初日、この仕事はちゃんと正装して歌わなければいけないということで、当時まともな正装なんて一着も持っていなかった僕は、背格好の似ている友達に借りたスーツを着て営業1時間前にその新しいラウンジに向かった。

しかしまあ、パーティーとかはあるけど、こんなふうにお店に正式に雇われて歌うなんて経験が今までにないから、ものすごい緊張するなあ。

それに、恥ずかしながらスーツなんてものもほとんど着たことがなかったので、歩いてるだけでもロボットみたいな歩き方になってしまう…。

もう、体中カッチンコッチン。(笑)

そんな初めての緊張感の中、店にたどり着いたロボットたかゆきに、オーナーが一言。

「お!先生、おはようございます。
スーツ姿も決まってるじゃないですかー。
今日からよろしく頼みますよー。」

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。」

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

ん?

あれ?

ちょっと待てよ…。

今この人、俺の事「先生」って呼ばんかった?

せ、せんせい…?

パッと周りを見渡すが、この時間まだお店には僕とこのオーナーだけで、他に教師や医者や弁護士などの「先生」と呼ばれるような人種は存在しない…。

「も、もしかして、今言われた『先生』って、ぼ、僕のことですか?」

「当たり前じゃないですか。他に誰がいるんですか。」

「いやいやいや…。(苦笑)
僕みたいなもん、ただのストリートミュージシャンですし、そんな先生なんて呼ばれるような大それたものじゃないですよ。」

「ハッハッハ!
そっか、先生は知らないんですね。
いやね、夜の世界ではね、こういうお店で演奏する人の事をみんな『歌の先生』って呼ぶもんなんですよ。」

「は、はあ、そういうもんなんですか…。
けど僕、まだ26のペーペーなんで、河野さん(オーナーの名前)みたいな人に『先生』なんて呼ばれると、すごく恐縮しちゃいます…。」

「そんな、年齢なんて関係ないんです。
先生は先生なんやから。
まあ、夜の世界のただの形式だから、そんな固く考えずに。」

「は、はい。分かりました…。」

夜7時すぎ。

まず初めにたかゆき先生(笑)はお店の音響のチェックを兼ねたリハーサルを始めた。

しかしこのお店、別に歌を聴かせるのがメインのお店じゃなくて、おっちゃん達がキレイな女の子目当てにお酒を飲みに来るところだから、僕の歌は所詮BGM程度の生演奏であるらしく、ちゃんとしたステージがあるわけでもなく、最新の音響設備が整っているわけでもない。

人ひとりがようやく座れるぐらいのちょっとしたスペースで僕は歌い、もちろん専属の音響さんなんているはずもないので、音は、横にポツンと置いてある小っちゃくて質素なミキサー(音を調節する機械)を使って歌いながら自分自身で調整しろということだった。

さらに、そのミキサーの横には有線放送のチューナーが置いてある。

これは何に使うのかというと、僕が歌う時間は(お店のオープンする)夜8時から10時半までで、間に30分間の休憩が2回あって、実質歌うのは1時間半なんだけど、その休憩の時間はこの有線を流すらしいのだ。

そして、この有線の操作も僕がやれという指示。

つまり僕が店にいる間はずっと、この店の「音」全般は僕ひとりが取り仕切らなければならないらしい。

いやあ、初日からえらい責任重大な仕事や。

しかし、ただのストリートミュージシャンにそこまで全部やらすか…。

まあ、無駄な人件費を使わないというエコなやり方ではあるわな。

うん、地球に優しく、先生に厳しいお店だね。(笑)

そしてこの後、ひと通り説明を受けて、僕がギターの音やマイクの音を調整していると、7時半になって続々と着飾った女性達がお店に入ってきた。

どうやら、ホステスさんの出勤時間のようである。

彼女達の年齢は結構マチマチで、すごく若そうな人もいれば、僕と同じくらいかもっとそれ以上っぽい人もいた。

けど、さすが高級ラウンジだけあって、大抵の人(笑)がお綺麗である。

ただみんな、今日が新規オープンの初日だとは思えないほど緊張感が無く、

「おっはようございまーす☆」

「おっはー!」

などと、何とも軽い挨拶が店の中を飛び交っている。

聞くところによると、彼女達はみんなオーナーが経営しているもうひとつの店で働いていた女の子達で、新人の子は一人もおらず、新しい店とはいえオーナーを含め全員が今までの仲間であるらしい。

なるほどね。

だからか、それに対してオーナも、

「はい、○○ちゃん、おっはー!今日からまたよろしくねー☆」

などと、50歳すぎのお偉いさんとは思えないような幼稚な返答をしている…。(笑)

そして彼は、出勤してくるホステスさん一人一人に対して、僕の紹介も始めた。

「えっと、彼が今日からウチの店で演奏してくださる『歌の先生』。
ちゃんと挨拶しいや。」

ホステスA
「は~い。先生、おはようございま~す。」

ホステスB
「先生、わたし○○。よろしくね♡」

ホステスC
「お歌、楽しみにしてますね、先生♡」

・・・・・・・・・・・・ほう。

なかなか捨てたもんじゃないやんけ、

先生っちゅう仕事も…。(笑)

(しかし、こんな若い子が昔のフォークソングを楽しめるわけもないが…。苦笑)

7時40分すぎ。

一応ホステスさんは全員集まったようで、みんな店内の長椅子に一列に腰をかけておしゃべりしたりお化粧直ししたりと、相変わらずの和やかムードが続いていた。

そんな中、少し遅れてやって来たある一人の女性の登場で、店の空気が一変し、一気に緊張感に包まれることになる…。

ビシッと着物を着こなし、前髪はニワトリのトサカみたいに固められ、その存在を誇示するかのごとくシャナリシャナリと歩く推定年齢40歳ぐらいの美人な女性。

そう、この店のママさんのご出勤である。

しかし何だろう、この存在感というか、威圧感は…。

さっきまで騒がしかったみんなも、急に黙りかえってしまっている。

僕がそんな店の突然の空気の変わり様に驚いていると、オーナーが一言。

「あ、ママ、おはようございます!」

ママ
「はい、おはよう。」

「えっとね、彼が前に言ってた歌の先生。
今日から歌ってもらえることになりましたから。」

突然のオーナーからのフリに、

「あ、今日からここで歌わせてもらう、たかゆきと申します。
どうぞ、よろしくお願いします。」

と、僕が緊張しながらも慌てて立ち上がって挨拶すると、ママはビックリするぐらい明らかに興味の無さそうな態度で、何と僕の顔をチラリとも見ずに、

「あ、そう…。」

とだけつぶやいて、目の前を悠然と通り過ぎていった…。

え?

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

えええええええええええええええ!?

た、たったそれだけ…?(汗)

あ、そうって…。

あ、そうって…。

あ、そうって…。

わ~~ん。

怖いよ~。(涙)

しかし、なんじゃこのママは!?(苦笑)

言っとくけどなー、俺やって自分から好き好んでこの店で歌うわけじゃないんやからなー。

頼み込まれてしぶしぶOKしただけやねんからな。

ぶー、ぶー!

う~ん…。

くっそー!

覚えてやがれ、このトサカ女!!(笑)

つづく…。

(よーし、今度こそ急いで書くぞー!)

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「伝言ボーイ」

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2007年3月19日 (月)

スカウト男

前々回の話を書いていて思い出したんだが、実は僕は4年ほど前ほんの短い間だけ、今歌っている飲み屋街の中にある高級ラウンジでミュージシャンとして雇われて歌っていたことがある。

今日はその時のことを書こうと思います。

ある夜、すごく熱心に僕の歌を聴いてくれていたある一人の男性が、突然僕に名刺を差し出してきた。

見た目は50歳すぎぐらいでスーツ姿だったので、てっきりサラリーマンの方かと思っていたがどうやら違うみたいで、名刺にはこの飲み屋街のどこかのラウンジの名前が書いてあった。

「えっと、私はこの店のオーナーなんですが、少しお話よろしいですか?」

「あ、はい、何でしょうか…?」

「さっきから聴かせてもらってたんですけど、ほんとに歌お上手ですよねえ。」

「いえいえ、めっそうもないです…。」 (←ほんとは嬉しい。笑)

「実はですね、私、約1ヵ月後にこのお店以外にもうひとつ新しいラウンジをオープンさせるんですけど、今そこで定期的に音楽を演奏してくれる歌手を探していまして、もしよかったらあなたにその店で歌っていただけないかと思いまして…。」

いわゆるこれは、スカウトである。

みなさんは一見、こういう風に街のストリートミュージシャンがお店の歌手としてスカウトされるのはすごく喜ばしい事だと思うかもしれないが、僕にとってはちょっと違う。

僕の場合、いつも言っているがこの仕事の目的が歌手になるためとか将来につながるようなそういう類いのものではないので、こういう風にお店なんかで雇われて定期的に活動してしまうと、妙に安定してしまってほんとにこういう世界から足を洗えなくなっていってしまう気がするのだ。

(これまたいつも言っていることだが)だから、こういうお誘いはいつも全部お断りすることにしている。

それに、やらしい話、実際こういう仕事の1日のギャラはそこまで高いものではなくて、正直なところいつも通り道で歌っているほうがよっぽど儲かるのだ…。
   ↑
(ほんと、やらしい!笑)

というわけで、この時も丁重にお断りさせていただいたんだけど、それからがいつもと違った。

なんとこのオーナー、その日から1週間ぐらい、毎日のように僕が歌ってるところに通っては、毎回僕を熱心に説得し続けたのである…。

「ほんと、なんとかお願いできませんか!もうあなたしかいないんですよ。」

「いや、そう言われましても…。
いっても僕は、これで暮らしてるには暮らしてますけど、所詮道で歌ってるだけの人間なんで、実際歌もお店で歌わせてもらうようなそこまで大したものではありませんし、それに何といってもレパートリーが昔のフォークソングしか無いですから…。」

「何を言ってるんですか、昔のフォークソングだけで十分ですよ。
ウチの店に来るようなお客さんは、みんなそういう年代の方ばっかりですから、フォークソングみたいな歌だからこそ喜ばれるんじゃないですか!
そして、ウチで働く若い女の子達にもフォークソングの素晴らしさを分からせてやってくださいよ。」

「・・・・・・・。
けど正直な話、僕にも生活というものがありますので、収入的な面においてもこの路上演奏をやめるわけにはいかないんですよ。」

「いつもここで何時から何時頃まで歌われてるんですか?」

「えっと、だいたい9時すぎから夜中の2時すぎぐらいまでですかね。」

「じゃあ分かりました。ウチで歌うのは8時から10時半までの2時間半だけでいいので、それからまたここに来て歌われたらいいじゃないですか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
(何て、強引で一方的なお願いだろう…。苦笑)

とにかくこんな会話が毎日のように続き、1週間ぐらいたった最後の最後には

「もう、1ヶ月だけでもいいんで、とにかく『試し』にだけでも歌いにきてください。
後の事はそれから考えてくれて結構なので。

とにかく、試しにだけでもどうかお願いします!!」

なんていう話に変わるくらいの、熱烈なスカウトだったのである。

うーん…。

1ヶ月だけかあ…。

しかしまあ、何をそこまで僕にこだわるのか、よっぽど他に歌う人がいないのかよく分からないが、ここまで熱心に自分が必要だとお願いされると、そんな経験なかなか無いので、何だか悪い気がしないでもない気がしてくる。

それに、こんな風に毎日のように足を運んでもらってるのも少し気が引けるしなあ…。

うーん…。

そやなあ…。

こんな経験できるのも今だけかもしれんもんなあ…。

よし、

もうこれも何かの人生経験のひとつとして、1ヶ月限定で引き受けさせてもらうか。

「じゃあ、ほんとに1ヶ月だけでもいいと言われるなら…。」

「おお、そうですか!!
よかった!ほんとうによかった!!!」

というわけで、あまりの「押し」に折れた当時26歳の僕は、この数週間後短い間ではあるが、人生初の高級ラウンジシンガーとしての仕事を始めるのであった…。

つづく…。

そんな小分けにするような話でもないですが、とりあえず今日のところは続きます。

 

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「トサカ女」

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2007年3月11日 (日)

酒と泪とレゲエと漬け物

せっかくランキングにも参加したことだし、更新のペースを速めるためにも、これからは大きい出来事だけじゃなくちょっとした事でもどんどん書いていこうと思います。

昨日(金曜日)の夕方は、ある有名企業のなんだかの会にお呼ばれして、なんとあの帝国ホテルで演奏してきた。

前に一度、ここ数年はこういう会での出張演奏の依頼はほぼお断りしていると言ったが、この会社の場合は、そこのお偉いさんが昔からの常連さんで何年も前からお世話になっているというのと、ギャラがかなり高額だというのが決め手になって、今回は依頼を引き受けたのである。(←いやらしい!笑)

この会はどうやら企業同士の1年に1回のお食事会のようなものらしく、出席されている方々皆さんが部長クラス以上で、4,50代の方がほとんどだった。

全部で5,60人はおったかな。

その中の出し物として、僕がいつも歌っているようなフォークソングが重宝されるということで、僕に白羽の矢が立ったみたいである。

しかしまあ、やはり帝国ホテルで行われる会だけあって、部屋はものすごく広くて豪華だし、各テーブルにはコンパニオンと呼ばれるホステスさんみたいな綺麗な女性が配置されていたり、僕の演奏にも専属の音響さんが付いてくださったりと、いちいちお金がかかっていた。

けど、それよりもなによりも、一番驚いたのは、僕の演奏の前に「前座」なるものが用意されていたこと。

僕の演奏がメインの出し物で、その前に前座としての出し物をもう一組呼んであるらしいのだ。

ほう、僕のためにわざわざ前座を…。

そもそも前座というのは、メインの出番の前にそれを引き立てるために行われるものであるはず。

僕が歌うフォークソングなんてものすごい地味なものなのに、僕が前座ならまだしも、それを引き立てる役目のものって、一体どんなものなんだろう?

リハーサル(機材設定やあれこれ)のために早めに会場に入っていた僕は、そんな興味心とちょっとした期待感を胸に控え室で出番を待っていた。

そして、本番。

僕はその前座の出し物を袖口から見て、腰を抜かすことになる…。

舞台上では、若い女性3人が音楽に合わせて踊りを踊っていた。

その踊りというのも、何と

「セクシーレゲエダンス」♡

だったのだ…。(苦笑)

(以下、イメージ画像)

Dsc_9827_1

こんな格好の女性達が、腰を激しくクネクネ・フリフリさせながら

Ik9x4153_2

こうなったり、

Dsc_7700_1

こうなったり、

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こんなことになっちゃったりする踊りである…。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

おい、今回俺を呼んだおっさん!

こんな踊りの後に、どうやってフォークソング歌えっていうねん…。

集まったおっさん達、全員完全に目がイってもうとるやんけ…。(笑)

これが前座って…。

いやはや、すごい食い合わせである…。(苦笑)

こんなもん、俺の歌なんて、おっさん達にとったら、ものすごい豪華なフルーツパフェのあとに、漬け物がポツンと出されるようなものやんけ。

ああ、あの舞台に立ちたくない…。

この後結局15分ほど彼女達が踊って、その後僕が40分以上演奏したんだけど、そうはいってもやはりフォークソングというのはこの年代の方達には絶大なる支持があるようで、僕の歌も思った以上にお客さんたちの反応は良かった。

どうやら、デザートと漬け物は別腹のようである…。(笑)

と、ここまで書いてきたが、今日は別にこんな事を書きたかったわけじゃない。

一旦、レゲエダンスのことは忘れて欲しい。(笑)

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

もう忘れた?

話していい?(笑)

えっと何が言いたかったかというと、いままでいつも僕は路上以外のこういう場で歌うときは、何日も前からすごく緊張して、本場中も無我夢中になって感情をいっぱい込めて歌うタイプの人間だったんだけど、今回僕はレゲエダンスとかそういうことは全く関係なく、本番当日まで全くといっていいほど緊張というものを感じなかったのである。

さすがに当日になれば緊張感もわいてくるかと思っていたが、それどころか本番が始まってさえもずっと冷静沈着で緊張のカケラも感じない…。

一見、緊張感が無いというのはプレッシャーがなくリラックスできていて、こういう舞台に上がるには理想的な感じがするかもしれないが、僕の場合はいい意味でリラックスできているとかそういうのではなくて、テンションが全く上がらず妙に冷めているという意味の緊張の無さだったのだ。

歌っている最中もテンションが上がらないのでうまく歌に感情を込めることが出来ず、感情を込めているフリをして歌い、頭の中ではずっと他の事を考えていた。

「ああ、俺一体こんなとこで何してるんやろう…。」

って。

(何度も言うが、さっきの前座のレゲエダンスが原因ではないよ。笑)

歌えば歌うほどむなしさは増して、40分間歌い終えた後僕はなぜか涙をこらえるまでになっていた。

それでもお客さんはすごく喜んでくれていたのだけれど、そんなことはもうあまり関係ない。

自分の中の問題なのである。

何かがおかしい。

僕の心の中で、今何かが大きく変わってきてるのだ。

10年間も生活のためにお金を儲けるためだけの路上演奏を続けてきて、いつのまにか純粋な音楽に対する情熱が消え失せてきてしまっているのかもしれない。

もちろん、いつも人の歌を歌っているだけなので、そういう意味のむなしさもあるのかもしれないけど、それ以上に、僕はやっぱりこういう場所で歌うべき人間ではないと思えて仕方なかったのだ。

今や僕は、れっきとした「ストリートミュージシャン」であって、「ストリート」という文字を切り取った、「ミュージシャン」というものではないのだということをなんだか痛切に感じたのである。

この後、家に帰った僕は、ひとり溜まっていた涙をすべて吐き出した。

そしてひとしきり涙を流した後、僕はまた準備をしなおして、結局いつもの路上演奏に出かけるのだった…。

(いつもの歌う場所に到着すると、なんだかホッとしている自分がいて、それもちょっと複雑な気持ちだった…。)

カッチカッチカッチ…。

僕の中で時計の音が鳴り響きだした気がした。

カッチカッチカッチ…。

僕ももう30歳。

そろそろ急がなきゃ。

いろんな意味で、タイムリミットは近づいて来てるのかもしれない…。

カッチカッチカッチカッチ…。

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