赤ペン先生
伝言ボーイの続き…
次の日の開店前。
僕は、昨日より早めに呼び出されて、オーナーつきっきりで音合わせのリハーサルをしていた。
どうやら、昨日の演奏に、やはりあれからまたトサカ女から注文がついていたらしいのだ…。
トホホ…。
「先生、まだまだ音が大きいみたいですねえ。」
「ええ?そうなんですか?
自分ではだいぶ小さくしたつもりなんですけど…。」
「いや、まだ大きいです。」
「けど、あれ以上小さく歌うと、モニター(演奏者用のスピーカー)があるわけじゃないから、店の雑音に負けちゃって自分自身何を歌ってるのか分からなくなっちゃいますよ…。」
「モニターとかそういう難しいことはよく分からないけど、とりあえずとにかく今、試しに歌ってみてくださいよ。」
「あ、はい。分かりました…。」
どうやらオーナーは音楽の事に全く詳しくないみたいだが、とにかく僕は言われた通り、昨日のようにスピーカーのボリュームを極力下げて、歌もかなり小さめに歌ってみた…。
ほんの~ 小さな出来事に~
愛は~ 傷ついて~ ♪
「ああ、まだ大きいですね。
先生、BGMですよ。」
ええ!?まだ?
もうこうなったら、試しにスピーカーの音量、全部切ってまおっと。
やけくその、生声、生ギターじゃ。(笑)
ほんの~ 小さな歌声に~
僕は~ 傷ついて~ ♪(笑)
「いや、もっと小さく。
もうほんと、ささやくぐらいでいいんです。」
はあ?
このオッサン、何言っとんねん。
トサカ女に何を言われたか知らんけど、2人とも絶対何にも分かってないわ。
こんなもん今はいいかもしれんけど、お客さん入ったら、お客さんの話し声と同レベルやぞ…。
何歌ってるか全然分からんやんけ!
それに、マイクとスピーカーがある意味もまったく無いし…。(苦笑)
そんで、それをさらに小さくして、ささやくようにやとー!
こんにゃろめー、バカにしやがってー。
あーあ、あほらし。
もうどうでもええわ…。
ほんの~ 小さな歌声に~
僕は~ 傷ついて~ ♪
「そう、それくらい!」
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
ボクハロボット、カンジョウハモチアワセテイマセン。
イツデモ、ゴシュジンサマノイワレルガママ…。(笑)
夜8時20分。
2日目がオープンして、僕は満員のお客さんがホステス達とたわむれる、にぎやかな店内で歌っていた。
もちろん、さっき試したミクロのささやくような声で…。(苦笑)
当然、こんなにぎやかな場所で、僕の演奏がお客さんにほとんど聴こえてるわけがない。
だって、演奏してる本人ですら、時折自分の歌が聴こえなくなるんだもん…。(涙)
あははは…。
もうこんなの、BGMでもなんでもない…。
お客さんの中には、音の出ないマイクに向かってボソボソとなにかささやいている僕を不審げに一瞬だけ見つめる人もいたんだけど、多分僕の存在に気付いていなかった人すらも何人かいるはずだ。(苦笑)
しかしそんな中、トサカ女だけは、昨日とは打って変わって僕を1回もにらみつけることもなく、機嫌良さそうに接客をこなしている。
なるほどね。
トサカ・オブ・ジョイトイは、初めからこういう状況を求めてたわけやね…。
・・・・・・・・・・。
って、
じゃあ、初めから俺を雇うなよ!!
有線流しっぱなしにして、ヒゲ生えたマネキンでも置いとけっちゅうねん!!
くっそー。
オーナーのおっさんも、トサカのおばはんに言いくるめられて、俺にこんな屈辱的な歌い方させやがって…。
もうー、2人とも、
先生を大切にしない奴なんて、大っ嫌いだ! (ゲド戦記より)
この後、妙にふっ切れた僕は、機嫌良く仕事しているトサカ女に少しでも復讐してやりたいと思い、ひとつだけイタズラを考えついた。
26歳のいい大人がするようなことではなく、何とも幼稚でバカバカしいイタズラなんだけど、どうしても今あの女を困らせてやりたくなったのだ。
それはどんなイタズラかというと、実は昨日の初日のリハーサルの時、有線放送のレシーバーをいじっているうちに、ある面白いチャンネルを見つけたので、それを僕の休憩の時間に間違ったフリをして流してやろうというもの。
さっそく8時30分、休憩時間になった僕は、有線のチャンネルを昨日見つけたそのチャンネルに合わせた。
まだボリュームを上げていないので、もちろん今は店内には何も流れていない。
あかん、緊張してきた…。
どうしよー、やっぱやめとこっかなー。
うーん…。
いや、たかゆき、やるんや。
どうせ、こんな仕事ずっと続けるわけやないんやし…。
さあ、勇気を出して、GOや!
僕は一気に有線のボリュームを上げた…。
その瞬間、にぎやかな店内に、ジャズでも何でもない、ひときわ違和感のある、ある「声」が流れる…。
「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹…。」
そう、僕は昨日、「アナウンサーがただひたすら羊の数を数え続ける」という何とも訳の分からんチャンネルを見つけてしまったのだ。(笑)
店内は、突然の予期せぬ出来事に一気に静まりかえる…。
そして、一呼吸置いて、波がかえすように今度は一気に店内は笑いに包まれる。
「あっはっはっは。なんやこれ。」
「キャー、めっちゃおもろいー♡」
お客もホステスもみんな笑い、「どうなっとんや?」と周りを見渡す。
そこで僕は立ち上がり、
「あ、すみません!間違えました!」
と大きな声で頭を下げる。
それによって、みんなはこれが僕のミスだという事を認識し、さらに笑いが起きる。
僕は慌てて機械をいじくり直すフリをして、さらにボリュームを上げる…。
「羊が13匹、羊が14匹…。」
「あ、すみません!」
笑いは、さらに爆笑へと変わる。
もうみんな、腹を抱えて笑っている。
さて、そんな、僕が仕掛けたこの一連のおもしろハプニングの間、たった一人だけピクリとも笑っていなかった人がいる…。
そう、それはもちろん…、
トサカ女。(笑)
初めに羊を数える声が流れた時、彼女だけはすぐに僕が原因だと分かったみたいで、ものすごい勢いで僕をにらみつけてきた。
きっと、自分の店の華やかなイメージを、こんな風におちゃらけた雰囲気にされたのが、ものすごい腹ただしかったんだろう。
僕はもう、笑いをこらえるのに必死で、次にもっとボリュームを大きくした時なんか、彼女は怒りで顔が真っ赤っかになっていた。
よし、目的達成。(笑)
さあ、
書き始めてみると思ってた以上にダラダラと長くなってしまった今回の思い出話も、ちょっと中途半端なこのへんでおしまい。
だって、こんな仕事すぐに辞めたるわと思っていた僕も、さすがに最初の約束だけは破っちゃいけないということで、結局1ヶ月間だけは何とか無難に与えられた仕事を勤め上げてしまって、この後別に大した事は起きへんかってんもん。
まあもちろん、僕のささやかな反抗期だったこの「羊事件」以降は、トサカ女との関係はもっとぎこちないものになっていったけど…。(笑)
あっ、そういえば、ひとつだけ気になった事がある。
それは、僕がオーナーに辞める事を伝えに行った時、
今までずっと僕に対して敬語だったオーナーが、なぜか急にタメ口になってた事…。(笑)
「先生、なんでやめるねん。やめんなや。」
「続けろって、先生よお。」
など…。
おそらく倍近くの年齢だから、突然のタメ口も全然構わないんだけど、タメ口やったらタメ口で統一せえっちゅうねん!
いらん所に無理やり「先生」って付けるから、なんかバカにされてるみたいやんけ!(笑)
ああ、もし俺が赤ペン先生やったら、思いっきり訂正したるのに…。
「先生、なんでやめるねん。やめんなや。」
↑
間違いです!(-50点)
正しくは「なぜおやめになるのですか。
やめないでください。」ですよ。
河野くん、ちゃんと学校で予習・復習しましょうね。
「続けろって、先生よお。」
↑
バカタレ!(-50000点)
正しくは「おお、素晴らしきたかゆき大先生!
あなたは今回、
こんなに長い文章を頑張って書かれたんですね。
読みやすかろうが、読みにくかろうが、
内容が面白かろうが、そうでなかろうが、
ここまで来たら、そんなことはもう関係ありません。(笑)
どうも本当にお疲れさまでした。
これからも応援しておりますので、
ブログ頑張って続けてくださいね♡」 だろがい!
トサカ女と一緒に、顔洗って出直して来い!
赤ペン先生より
おわりっ。
(なんだ?今回の話…。笑)
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