続き…
(今回、ものすごーく長いので、先に言っておきますね。苦笑)
怒鳴りちらすアニキ。
謝りちらすA。
ビビりちらす僕。
仲間はずれのB。(笑)
そんな状況の中、ひとしきりアニキに謝っていたAが、突然携帯電話を耳から離し、それを僕に差し出してきた。
え!?
何?
何ですの…?(汗)
「アニキがお前にかわれって。」
わ、
わわ…。
そ、そんな…。
あんなに怒ってらっしゃる方と…?
なんと殺生な…。
ああ、やっぱり結局そうなっちゃうのね…。(涙)
けどもう、ここまで来たら後戻りはできない。
元はと言えば、僕が「事務所に連れて行け」なんていう無茶なお願いをしたんだから…。
逆に、事務所に行く手間が省けたぐらいに考えればいいじゃないか…。
電話なら、直接危害を加えられることもないんだし…。
とにかく、覚悟を決めて、僕は電話を受け取る。
「あ、あのー、お電話かわりました。どうもこの度は…、」
「お前かコラぁ、
さっきそこで歌っとったヤツは!!!!
$%&#☆@*¥!!!!
全部丸聞こえなんじゃ、ワレ!!!
@¥?%#*★⇒!!!!
そんでなんや、
調子乗ったことぬかしやがって!!!
☆#*@&¥%$!!!!
事務所つれてけやと?おお!!
¥&☆$#*@%!!!!
ヤ○ザなめとったらあかんぞコラぁ!!
%@*&★?↑$!!!!
来たかったら来いや、
そのかわり海沈めてまうぞ、ワレ!!
★→@#*%$=☆♪?&!!
♪+*$÷☆#@¥%!!!!」
電話をかわるやいなや始まった、耳をつんざくほどのあまりにも殺気立った文字にもならないアニキの怒号は、この後も「埋める」だの「殺す」だのありとあらゆる脅し文句を織り交ぜながら、(もちろん僕が割って入るスキもなく)延々と続いた…。
わあ、脅し文句の宝石箱や~!(彦摩呂談)
しかしまあ、恐ろしい。
とんでもなく恐ろしい…。
いくら電話とはいえ、やっぱりアニキともなると、このチンピラ達とは迫力が全く違う。
文章ではなかなか伝わりにくいとは思うが、ほんとにすごい迫力なのだ。
事務所にさえ行けば何とかなるかもしれないと思っていた僕の考えは、どうやら甘すぎたようだ。
電話だけでも、震えが止まらないじゃないか…。
ただ、そんな中、ぶるぶる震えながらも、実際は僕の頭の中だけはフルスピードで回転し続けていた。
普通なら、さすがにここまで恐ろしいと、さっきまでの「覚悟」もどこかに吹き飛んで、もう全面降伏してしまいたくなるはずなのだが、頭をあまりにも急いで動かしすぎてブレーキが利かなくなっていたんだろうか、何とここにきてまだ僕は
何とかして、どこかに活路を見い出そうとしていたのである…。
ああ、どうかしている。
この時の僕は、本当にどうかしている…。
ヤ○ザ相手に、どこまであきらめが悪いんだろう…。(苦笑)
お願い!誰か、彼を止めてあげて…。(笑)
とは言っても、僕が考えていた活路というのは、そんなまったく攻撃的なたぐいのものではない。
ひとつ、気付いた事があるのだ…。
それは、アニキがなぜか「関西弁」だという事実。
ここは岩手県なのに、関西弁まるだし…。
これは、アニキが関西出身で、いまだに関西に愛着を持っているということに他ならないのではないだろうか。
確かに関西人の中には、必要以上に、自分が関西人であることを誇りにもっている人がすごく多い気がする。
だから、とにかくまず下手下手に立ってひたすら謝り続け、途中アニキが少しでもスキを見せたら、ここぞとばかりにその「関西愛国心」をくすぐってしまうのだ。
アニキがほんとに関西人かどうかの確証はないし、うまくいくかどうかもまったく分からないが、やってみる価値は少しはありそうだ。
それから、何度も言うが、やっぱりどうしてもぬぐい切れないこの「昭和の極道映画」の空気感…。
ものすごく恐い反面、あまりにも現実離れしすぎている体験なので、心のどこかでこれが全て他人事のように思えてしまう自分がいるのである。
まるで、その映画の観客にでもなったかのような気分。
もちろん、そんなのんきな事を言っている場合でないのは重々分かっているのだが、どうしてもその感じだけはどこかぬぐい切れない…。
だからいっそのこと、それらをミックスして、まずはできるとこまで下手下手に立って謝り、頭の中ではハッピーエンドの極道映画をイメージしながら、もう自分自身が映画の出演者になった気持ちでその役になりきって、義理や人情といった「仁義」をチラつかせつつ、なおかつ同時に相手の「関西愛国心」をくすぐってやろうというのだ。
そうすることで、少しは事態が進展して、何らかの活路を見い出せないだろうか。
そういう考え&作戦。
安易でしょ。(笑)
略して、
『まずはできるとこまで下手下手に立って謝り、頭の中でハッピーエンドの極道映画をイメージしながら、もう自分自身が映画の出演者になった気持ちでその役になりきって、義理や人情といった「仁義」をチラつかせつつ、なおかつ同時に相手の「関西愛国心」をくすぐってやろう』大作戦。
もしこの作戦がうまくいかなければ、僕は今度こそほんとにどうなってしまうか分からないけど、そんなこと今この状況でいちいちリアルに想像してしまったら、恐ろしすぎてそれこそほんとに何にも出来なくなってしまう。
いっても、僕は所詮一般人。
アニキ、口ではああ言ってても、まさかそこまでエグイことはしないだろう。
・・・・・・・・・・・・。
うん、しないだろう…。
しないだろうね…。
しないと思うよ…。
・・・・・・・・・・。
しないよね…。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
しないって、言ってーー!!(涙)
とにかく、アニキが散々怒鳴り続けている間、耳半分でずっとそんな事を考え続けていた僕は、この旅をなんとか続けるためにも他に方法がない今、これがいくら陳腐な作戦であれ、最後まで精一杯あがけるだけあがいてやろうと決心したのである。
そしてこの後、アニキの怒号に一瞬だけ沈黙ができた時、僕はさっそくこの作戦を開始した…。
たかゆき、さあGO!だ。
(ああ、緊張する…。みんな、応援してね。)
「はい、この度はまことに申し訳ありませんでした。
心からお詫びいたします。
僕は、大阪から流れてきて全国を行脚している途中の、ただの『流れ者』でございまして、歌を歌って日銭を稼ぎながらなんとかかんとかやっとその日の食事代と移動費をまかなってきている小さな小さな身分の者です。
今回は、ほとんどお金も無い状態で岩手県に突入してきてしまい、食うものも食わぬまま、そして右も左も分からぬまま、あそこで演奏を始めてしまいました。
いくら大阪から流れてきたとはいいましても、ここ盛岡には盛岡の掟(おきて)があるでしょうに、何を言っても僕の言い訳にしかなりません。
ほんとに申し訳ございませんでした。」
「当たり前じゃ!
そんなもん、何の言い訳にもなるか!
盛岡の路上で商売してる奴らは、みんなウチの組にショバ代払って、許可取って商売しとるんじゃ!
そんなどこぞの骨かも分からん奴に、簡単にここで商売させるか、ボケ!!」
「僕の場合はそんな商売といったような大それたものではありませんが(ウソ)、確かにこの旅を続けるには、歌を聴いてくださる方から少しでもお気持ちを頂かないとやっていけないものなので、商売と言われれば商売といわれても仕方がないかもしれません。
けど今回、もう資金の無い状態まで来てしまいましたので、志半ば(こころざしなかば)ではございますが、ここ盛岡で旅は終わりとし、なんとかして大阪に戻るほかないようです。
もちろんこれは、自分で招いてしまった結果なので、いたしかたありません。」
「お前の事情なんか知ったこっちゃあるか!
とにかく、ここでは歌われへんねんから、とっとと片付けて、その場から去れ!
これ以上あんまりゴチャゴチャ言っとたら、ほんまに承知せんぞ!
それかお前、ほんまに事務所に来て、どエライ目に合わしたろか?おお?」
あ、あれ?
全然ウマいこといけへん…。
ヤバイなあ…。(汗)
こうなったら、イチかバチか、もうこっちから無理やりにでも仕掛けていくしかないな…。
「はい、もうおっしゃる通り、すぐにでも片付けようと思っています。
どうも今回は僕なんかのためにほんとにお手間をとらせました。
ところで、最後にひとつだけ質問させていただきたいんですが、もしかしてそちら様は、大阪出身のお方ですか?」
「おお!?
・・・・・。
そうや、大阪や…。
なんで分かるんや?」
わっ!
明らかに口調が変わった!
これはチャンスや!
あー、ドキドキする。
頑張れ、俺!
(しかし、「なんで分かるんや?」って、そんなもん誰が聞いても分かるっちゅうねん…。苦笑)
「はい、先ほどから、そちら様が大阪弁でしゃべってはったもので…。
僕も大阪を出発してもう長いので、お叱りを受けながらも、失礼ながらすごく懐かしい響きだなあと感じておりまして…。
なんだか、場違いな質問で、申し訳ありませんでした。」
「そうか、ワシ、いつの間にか大阪弁出とったか…。
普段は出してへんつもりやねんけどな。
興奮して、つい出てもうたんやな。ハハ。
けどな、兄ちゃん、大阪とか他の地域ではどうやってきたかは知らんけど、大阪に比べたらここ(盛岡)はいろんな意味で閉鎖された、所詮小さな田舎街や。
端から端まで全部、ヤ○ザが取り仕切っとんねん。
そんな、カタギの人間が好きなようにできる街じゃないんや。
それだけは覚えとき。
悪い事は言わんから、今日はおとなしく帰り。
な。」
すげー。
さっきまでとは完全に別人や。
ものすごい穏やかな人になってるで。
けど、それでもやっぱり、無理なものは無理なんやなあ。
ああ、もうひと押しっぽいねんけどなあ。
ここまできたら、あとちょっとどうにかならんもんかなあ。
「そうですよね、その地域地域によって、いろいろと事情は違いますものね。
そんな事情を、下調べもせずに旅を始めてしまった自分が、今すごく恥ずかしいです。
長く続いてきたこの旅が終わってしまうのは、すごく悲しいですが、これもひとつの勉強と受け止めて、またイチから出直します。
まあ、やっぱり今はすごく悲しいですけどね…。」
「ところで、兄ちゃん、いくつや?」
「え?
あ、25歳です。」(当時)
「そんで、大阪のどこや?」
「あ、はい、えーっと、『京橋』です。」
(ほんとは少しだけ違うが、分かりやすい駅を言ってみた。)
「おお!
京橋かいな!
ワシ、昔、住んどったがな。
懐かしいなー。
そうか、京橋かいなあ。
ほおおー。」
わお、奇跡のビンゴや!
ビックリ!!
これは、ここにきて、かなりの好感触やで。
いけー、たかゆき!
「はい、僕、京橋です!!」
「そうかそうか、京橋か。
若い頃は俺もな、あのへんでずっとヤ○ザやっとって、ほんでちょっといろいろとあってな、逃げるように岩手に流れてきたんや。
ああ、懐かしいなあ。
涙でてくるわ。
けど兄ちゃん、あれちゃうんか、京橋はヤ○ザもんいっぱいおるから、そんなとこで商売ちゃんとできとったんかいな?」
「いや、僕大阪では、京橋じゃなくて、ずっと○○で歌歌ってたんです。」
「○○っていうたら、もっとヤ○ザ多いやろうに、なんも言ってこんかったんかいな?」
「はい、○○では、おかげさまで組の方に温かい情をかけていただいていまして、特別に目をつぶっていただいていました。(ほぼ、ウソ。)」
「ほお、そうなんか。
ところでお前、さっき事務所に連れてけみたいなこと言うっとったらしいけど、ほんまに事務所に来て、どうするつもりやったんや?」
「いや、先ほどはもう無我夢中で、何がなんだか分からなくなってしまっていて、とにかく事務所にさえ行ければ、何とかなると思い込んでしまっていたんです。
お恥ずかしい…。」
「ははは。
お前、なかなかおもろいやっちゃな。
けど、そんなことしても何も変わらんから、これからはもうそんな危ないことやめとけよ。
な。
しかしまあ、25で、京橋を出て日本放浪中かあ。
そやなあ…。
何とかしてやりたい気もするわなあ…。
うーん…。
ちょっと待て。
今いろいろ考えるから、時間くれ。
うーん…。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。」
しばし、沈黙が流れる…。
おおお!!
事態は今、明らかに目まぐるしく前進してるぞ!!
すごいぞ、たかゆき!
でかしたぞ、たかゆき!
ただ、この沈黙、妙に気まずい…。
急に黙った俺を、不審そうに見つめてくる、A・Bの視線がかなり気まずい…。(苦笑)
数十秒後、アニキが再び口を開く。
それはまさしく、奇跡の言葉達だった…。
「よし、決めた!
お前もう、盛岡のどこででも歌ってええぞ。
俺が今から、上のもんに話通してきたる!
もし、歌ってて、誰かにイチャモンつけられたら、
『T橋組のケンさん』からちゃんと許可もらってるって、言え。
文句あったら、ケンさんに言ってこいって。
な。
分かったか。
そんでお前、何日ぐらい歌ったら、金稼げるんや?」
「え?
あ、いや、まあ、一週間ぐらいいただければ…。」
「そっか、分かった。
一週間やな。
お前、一週間がんばれ!
いっぱい金稼ぐんやぞ!
な!
どこでも好きな場所で、いつでも歌ってええから。
そんで、なんかあったら、今言ったみたいに
『T橋組のケンさん』の名前出せ。
分かったか。
ちゃんと覚えとけよ。
な。
とにかく、そういうこっちゃ。
そんならちょっと、もう一回そこにおる若いもんに電話かわってくれや。」
「あ、あ、はい…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は予想以上の急展開とこの結末にしばらく言葉を失ってしまったが、とにかく言われるがまま、状況を全く飲み込めていない不思議顔のAに携帯を渡した。
電話をかわったAは、アニキからいろいろと今回の話の説明を受けているようで、はいはいと何度も相づちをうっている。
しかし、しばらくするとAは、焦ったようにアニキにある反論を始めた…。
「けど、アニキ!
さっき、ニシダのアニキ(おそらく、また別のアニキ)からは、
『ちゃんとやめさせてこいよ』とかなりきつく言われておりまして…。」
するとその瞬間、
またもやAの携帯電話から、ものすごい怒鳴り声が漏れ聞こえてきた。
(しかも、今回は、何を言ってるのかまではっきりと聞き取れる…。苦笑)
「やかましい!!!!
俺がエエって言っとるんじゃあああーーーーーー!!!!!!!!!!」
ああ、下っ端のチンピラの人もいろいろと大変なのね。(笑)
この後、いまだ仲間はずれのBの横で、Aはただひたすら電話を相手に謝り続けていた…。
(なんか、さっきもこんな風景見たような気がする…。)
そして、電話が終わったAは
「まあ、アニキが言ったとおり、そういうことになったらしいから…。
後はよろしく頼むわ。」
と、少し気まずそうな表情を浮かべて僕に言い、
ようやく、二人はこの場から引き上げて行ったのである。
はあ、終わった…。
二人が立ち去った直後、僕は、今までずっと緊張していた全身の力が一気に抜けて、歩道の真ん中で人目も気にせずに、地面にへたり込んでしまった。
ふぅ~…。
いやはや、まさかこんな結末が待っていようとは…。
自ら望み、仕掛けた事とはいえ、正直この結末は全く想像もしていなかった。
あんなに恐ろしいヤ○ザが、あんな陳腐な作戦に、見事に引っかかってくれて、
いつでも、どこでも歌っていいだなんて…。
ショバ代もなしに…。
さらに、頑張ってお金を稼げだなんて…。
はあ…。
なんだか、嬉しいやら変な緊張やらで、うまく頭で理解できない。
そしてなにより、今さらながらかもしれないけど、
ほんとにこんな感じのままでいいんだろうか、僕の旅は…。(汗)
とにもかくにも、元の演奏場所に戻った僕は、弾き語りを再開させたんだけど、やっぱり全然仕事には集中出来なかった。
歌っている最中、どうしても、さっきまでの出来事が頭をよぎってしまうのだ。
あれは、ほんとに現実だったんだろうか?と。
要するに、ポーっとしてしまう感じ。
お客さんを呼び止める時も同じ。
どうしても、集中できない…。
そんなチグハグな仕事が1時間ほど続いた頃。
再び一瞬にして、僕の中に鋭い緊張感が走ることになる…。
何と、
さっきのチンピラA・Bが、また僕の所に向かって走ってきたのだ!
ぎょ、
ぎょえ~!!
今度はなんですのん!?
やっぱり、歌っちゃだめだったの?
もう、嫌や~…。(泣)
しかし、たどり着いた彼らは、今回は僕を止めにきたわけじゃないようだった。
B
「お前、ちょっとここに住所と名前書けよ。」
「はい?」
来るやいなや、突然僕にメモ用紙とボールペンを差し出すB。
何がなんだかよく分からないが、理由を聞くのも、断るのも怖い。
「あ、分かりました。」
そして、何だかヤバそうなので、嘘の住所でも書こうかなあと迷っていると、Aが
「いいから早く書けよ。」
と、急かしてきた。
「あ、はい…。」
やっぱり、嘘の住所を書くのもそれはそれで後々怖いことになりそうだから、僕はしぶしぶ本当の住所と名前を書くことにする。
そして、それを書き終えた頃、ちょうどAの携帯が鳴った。
A
「あ、アニキだ。お前、出ろ。」
え、俺が?
もうさっきから、訳が分からん!
何なん、これは?
とにかく、僕は携帯を受け取り、おそるおそる「通話」ボタンを押す。
「あ、もしもし、
わたくし先ほどの大阪からやってきた『流れ者』ですけども…。」
「おお、兄ちゃんか。
今な、上のほうとも話付けてきて、全部やってきたったで。
思ったより、ちょっと大変やったけどな。ハハハ。
だからもう兄ちゃんは、なんも心配せんでもええわ。
それからお前、今ちゃんと住所と名前書いたか?」
「はい、一応書かせていただきましたけど…。」
「そうか。
それはな、何の為に書かせたかっていうとやな、ヤ○ザにもの頼む時は、普通はちゃんと『筋』っちゅうもんを通さんとあかんねん。
だからワシさっきな、お前のためにな、近くの酒屋で日本酒の一升瓶買うてきたったんや。
この酒にな、今書いた兄ちゃんの住所と名前を書いてやな、組の事務所の神だなに飾っとくわけや。
それが、ウチの組に兄ちゃんが『筋を通した』ってことの証(あかし)になるんや。
分かるか?
ヤ○ザに筋を通すっていうのは、そういうことなんや。
大事な事やで、覚えときや。
けど今回はな、それも全部俺がやっといたるから、兄ちゃんはなんも心配せんと、そこで歌っとき。
な。
そんで、さっき一週間って言っとったけど、もう話付けてきたったから、何週間でも、何ヶ月でも、納得するまで好きなだけ歌ってええぞ。
ほんま、何週間でも、何ヶ月でもええわ。
誰もジャマする奴はおらへんから、好きなだけやり。
けど兄ちゃん、これだけは約束しいや。
もうこの先、これからは絶対、ヤ○ザになんかにからんだらあかんぞ。
相手は、俺みたいな奴ばっかりやないねんから。
血の気の多い若い奴もいっぱいおるからな。
ロクなこと起きへんぞ。
大変なことになってから気付いても、遅いからな。
いや、ほんま。
まあなにわともあれ、とにかく今回だけはな、好きなだけ岩手でお金稼いでいき。
なんも心配いらんから。
な。」
この電話の後、A・Bも、今日一番初めの出会いからは絶対想像も出来ないような満面の笑顔で、
「じゃあ、頑張れよ!」
と手を振って去っていった。
ああ素晴らしきかな、仁義あるこの世界。
と、ここまでが、今回の岩手県盛岡での、僕とアニキとチンピラA・Bの物語。
この話は、5年も前の出来事なんだけど、書いてみて思ったのは、やっぱりかなり鮮明に覚えているなあという事。
はっきりとした言葉遣いや、チンピラの岩手なまりまでは、さすがに記憶に自信が無くて標準語に加工したりいろいろしたけど、後の事柄はいまだにその空気感まで肌に焼き付いている。
だって、こんな経験、人生の中で何度も味わえるものじゃないもん。
たぶん、これからも一生忘れられない出来事だと思う。
ただ、この話には、まだ少し続きがある…。
それは、
この後僕は、結局この日から3日間弾き語りをしたんだけど、やっぱり一番初めに感じたように、岩手県はなかなかお金が儲からず、他の地域の2分の1くらいの儲けにしかならなかったので、その3日分の儲けだけを持って、すぐに次の青森県に逃げて行ってしまったということ。(笑)
あれだけ苦労したのに…。
何週間でも、何ヶ月でもやっていいって言われてたのに…。
T橋組の事務所の神だなには、僕の名前入りの一升瓶が飾ってあるというのに…。
だって、やっぱり、あんまり長くヤ○ザのお世話になんかなっていたくないし、もう十分岩手県は堪能した後やったもーん。
逃げろー。(笑)
ああ、先に観光してて良かったっと。
何と恩知らずの25歳…。
何と礼儀知らずの25歳…。
ああ素晴らしきかな、仁義なき僕の旅。
(この後、旅が終わるまでずっと、あの時本当の住所を書いてしまったことを猛烈に後悔する小心者の僕がいたことは、言うまでもない…。笑)
完
こんなに長い文章を最後まで読んで下さって、ほんとにありがとうございました!
P.S.
ひとつ、謝らなければいけない事があります。
今回、実はこの最終章を更新する2日ほど前に、読まれた方もいらっしゃると思いますが、「第四章」として、今回の前半3分の1くらいの文章を一度更新しているんです。
しかし、あまりにも「つづく…。」ばかりが続くのが少し忍びなかったので、今回最終章としてすべてをまとめて更新し直したわけです。
けど、ありがたいことに、途中の第四章を更新した時点で、コメントを6つも頂いてしまいました。
今回、そのコメントを残したままにさせてもらっているので、分かりにくいですが初めの6つは、(「つづく…。」となっていた)第四章に対するコメントとなっています。
ご了承ください。
そして、ミミさん、さりなさん、かすみんさん、ayuさん、サンミケ宮さん、マスクさん、
せっかくコメントを頂いたのに、こちらの都合でややこしいことをしてしまって、ほんとにすみませんでした。
これに懲りず、これからもどうかよろしくお願いいたします。
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