2006年8月26日 (土)

ノーレイン ノーレインボー

続き…

(今度こそ、一気に書き上げようと思って頑張ったら、とてつもなく長い文章になってしまいました。でも、なるべく頑張って最後まで読んでほしいです。)

それから、2週間、僕は仕事を休んだ。

もちろん、お巡りさんに言われたとおり、あのおっさんに会わなくするためでもあるが、それ以上に、いろいろ考える時間が欲しかったのである。

すごく苦しくて長い2週間だった。

僕は、考え続けた

ずっと変わらないと、当たり前のように思っていたことが、こんなに簡単に崩れてしまうなんて。

長く安定してやってこれたせいで、始めたばっかりの頃のあの緊張感が、だんだん薄れてきて、傲慢になっていた部分が、少なからずあるんだろう。

忘れてはいけなかったのだ。

僕の仕事は、綱渡りのようなもので、常に危険と隣り合わせで、いつでも緊張感をもって、細心の注意を払いつづけなければいけないのだ、ということを。

ちょっと風が吹いただけで、足場は大きく揺れるのである。

おおげさに聞こえるかもしれないが、僕は、ただ街で歌っているだけではないのだ。

の歓楽街で歌を歌って、しかもそれで、1年間を通して、毎日のように安定して生活費を稼ぎつづけなければいけないのだ。

これは、やはり普通のことではない。

常に、頭を働かして、なにかしらの緊張感をもっていないと、続けれるわけがない

今回の一件は、最近この仕事に対して、甘えてた自分へのであり、起こるべくして起こった事件なのかもしれない。

そうとまで考えていた。

ただ、だからといって、もちろん、現実をすべて受け入れれるわけじゃない!

あんな、しょっーもないおっさんのせいで、仕事を失うなんて、まっぴらごめんだ!

プーじゃ、プー。

やめ時は、自分の意思で決めるんじゃ!

おっさんに決められてたまるか!

そうだ、そうだー!たかゆき行け、行けー!

それに、今やめたところで、あまりにも突然すぎて、これからの人生設計なんて、まだ何にも決まってないし、決める気もさらさらない。

うん、うん。

よし、いっちょ最後まであがいてやるか。

よく考えたら、お巡りさんも言ってくれたように、すぐに強制的にやめさせられるわけじゃないみたいだし。

うん、やれるとこまでやってみよう。

考えるのは、それからだ。

わーい、わーい。よく言ったぞ、たかゆき!

しっかし、あのおっさん、マンガみたいなおっさんやったなあ。

いや、マンガにもあんなひどいおっさん出てこーへんで。

よう、あんなんで、今まで生きてこれたなあ。

いっつも一人やし、たぶん友達もまったくおらんねんやろなあ。

あー、あいつの部下も大変なんやろなあ。

しかし、まあ、あのおっさんの執念は、どっから来てんねんやろ。

ある意味すごいよな。

何がどーなったら、人に対して、あんな汚い言葉を吐けるねんやろ。

そんで、あんだけ偉そうなことばっかり言っといて、実際行動にうつせることっていったら、交番に通報するってことしかできてないもんなあ。

俺の人生めちゃくちゃにしたるって、あんだけ意気込んでも、結局できることっていったら、お巡りさんに言いつけるだけって…。

プププ…。しょぼー。情けなー。子供か。

結局、自分ひとりの力じゃ、何にもできへんねんやんけ。

俺を、殴るわけでもなし。

口ばっかりのおっさんなんやで。

・・・・・・・・・・・・・・・。

と、その口ばっかりのおっさんに、実際俺は、こんだけ悩まされてるわけやけど…。

やっぱ俺も、殴られるより、実際、警察に通報されるほうが、よっぽど痛いし…。

俺も、仕事続ける以上、おっさん殴ることすらできへんわけやし…。

結局、俺は、そんなおっさんにすら勝たれへんわけや…。

やっぱり、すごい弱い立場やねんな、俺…。

どうなんねんやろ、これから…。

不安やなあ…。

苦しいなあ…。

と、まあ、読んでいただいたら分かる通り、この2週間、僕は、精神分裂みたいに、突然強気になったり、突然どん底に落ちたりを延々と繰り返してたわけです。

ああ、2週間長かった…。

けど、ひとつだけ決まったことがあります。

それは、さっきも言ったように、最後まであがくやれるとこまでやってみる、ということです。

そういうことになりました。

僕は、また仕事にでるようになった。

仕事をはじめて4日後くらいで、おっさん登場。

ふう、やっぱ、来やがったか。

相変わらず、一人である。

いつものように、物凄い形相で、僕をにらみつける。

てゆうか、いつも以上の形相だ。

顔がまっかっかになっている。

けど、僕に話しかけることはなく、にらみつけたまま、交番に直行

僕は、この前お巡りさんに言われた通り、急いで片づけをはじめる。

ただ、分かったことは、おっさんが通ってから、お巡りさんがくるまでのほんの3、4分じゃ、とってもじゃないけど、いっぱいある僕の弾き語り道具は、片付けれないということ。

今回は、お巡りさんだけじゃなく、おっさんがお巡りさんを引き連れて登場。

「ぐぉらーーー!!!!

警察は何をやっとんのじゃーーーーー!!!!!

この前、あんだけゆうたのに、まだこいつ、ここでやっとるやないかーーーーー!!!!!!

どーなっとるんやーーー!!!!

ええかげんにせえよ!!!!

早くやめさせんかいーーー!!!!」

お巡りさん
「けど、彼もあれからしばらく来てなかったみたいですよ。」

「そんなもん、知るかーーー!!!

今、現に、やっとるやないかーーー!!!」

僕は、まったくおっさんの顔を見ず、お巡りさんにだけ話しかける。

「あー、今片付けてますんで、すぐ帰ります。」

お巡りさん
「分かった。じゃあ、よろしくね。」

そして、お巡りさんは、渋い顔をしながらも、交番に戻っていった。

残されたおっさんと僕。

「お前、ほんま、俺をなめとるな。

なんで、まだやっとるんじゃ!!

やっぱり、この前のんは、うそ泣きやったんやないかい!

こいつー、人をばかにしやがってーーー!!

何とか言え!!!」

もう、このおっさんに何を言っても一緒なのは、前回の件で実証済みである。

僕は、まったくおっさんの顔すら見ないまま、無表情で、一言も発さず、黙々と片付けを続ける。

おっさんは、そんな僕に対して、奇声をあげつづけている。

それでも無視…。

片付けが終わり、自転車に荷物をくくりつけ、とっとと帰る

背後で、おっさんが叫んでる

また、4日後ぐらい。

おっさん出現。

なんだか、おっさんの現れるペースが明らかに早まってきている…。

行動は、いつもといっしょ

書くのもめんどくさくなってきた。

ただ、今回、いつもとちょっと違うのは、どうやら、お巡りさんが交番にいないみたいっていうこと。

おっさん、交番の中に出たり入ったり、必死に窓をのぞきこんだりしている。

ちょっと、おもしろい。

お巡りさんがいないってことは、今日は仕事を続けてもいいのかもしれないけど、なんだかまためんどくさいことになりそうなので、前回と同じくおっさんを無視して、帰る

そして、3日後ぐらい。

どうやらおっさんは、もう、僕を止めにくるためにだけ、ここに飲みに来てるようだ。

どんだけ、暇やねん。

ただ、お巡りさんも、そろそろ限界に近づいてきた感じだ。

いつもよりかなりきつめの儀式がひと通り行われ、いつものように残った、僕とおっさん。

今回、僕は、いつもとちょっと違う行動にでる。

無視は続けるけど、帰らないのだ

すべて道具は片付けた。

けど、帰らない。

座ったまま。

ちょっとした反抗期だ。

歌ってるわけじゃないから、警察に言いようもない。

おっさんはまた奇声をあげる。

「なんじゃ!!

ほんまに、こいつはなめくさりやがって!!

どうせ、俺が帰ったら、また始めようと思っとるんやろが!!!

このうそつきが!!!

俺は知ってんねんぞ!!

お前、いつも、俺が帰った後、ここに戻ってきて、また歌っとるやろ!!

俺が何も知らんと思ったら大間違いやぞ!!

○○には、俺の味方がいっぱいおんねん!!

そいつらが、言っとったんじゃ!!

おーーー!!?」

もちろん、そんな事実はまったくない。

どこまで、おおボラ吹きなんやろ。

もしかして、俺にカマかけてるつもりなんかなあ。

ああ、情けないおっさんや。

その情けないおっさんに止められている僕は、もっと情けないけど…。

「よし、そっちがその気なら、こっちもやったるぞ!!

お前が帰るまで、ずっと見張っといたるからな!」

と、おっさんからの宣戦布告を受け、結局この戦いは2時間以上続いた。

僕はその間、おっさんに背を向けたまま、ボーっとしたり、普通に友達と携帯でしゃべったりしていた。

これは、思ったよりかなりだった。

なかなか時間が進まない…。

ただ、待ってるおっさんは、もっと暇だろうということで、自分に言い聞かしてがんばっていた。

途中、常連さんが何人か通りかかり、「今日は歌ってないのか?」と聞いてくる。

僕は、小声で手短に事情を説明する。

僕は必死に止めるが、常連さんはおっさんに食って掛かる

また、おなじみのおっさんの大罵倒ショーがはじまる。

案の定、常連さんもタジタジになる。

常連さん
「もう、こんなキ○チガイほっとき。
無視して、歌ったらええねん。
警察来たって関係ないやん。
歌ったらええねん。
ほっとき、ほっとき。」

そう言ってくださるのはありがたいが、そう簡単にいかないから、困ってるのである。

この後も、同じようなことが3,4回繰り返される

そして、2時間ちょっとたったときに、おっさんの携帯が鳴る。

おっさん、急に猫なで声になる。

「あ、うん、うん、分かった。

じゃあ、今から飲みに行くな。

はい、はい。」

おっさん、バツがわるそうに、何も言わずに立ち去っていった。

ああ、勝った…。

だからなんなんだ、と言われるとちょっと困るが、これは、おっさんに対しての、ささやかな僕の悪あがきだったのだ。

別に、これで事態がどうなるわけでもないが、少しでもおっさんを困らせたかったのである。

この日は、ちょこっとだけ達成感を味わう。

と、まあ、ここまで、僕の精神的な部分については、あまりふれてこなかったのだが、実際のところは、仕事を再開させてからのこの何日間は、僕の精神状態、もうボロボロのズタズタ

ほんと、やばいぐらいだったんです。

24時間ずーっと、おっさんの罵倒が頭から離れないし、これから先のことについての不安が物凄く胸をしめつけるし、毎晩悪夢にうなされるし、って感じで。

おっさんへの憎しみもハンパなもんじゃないし。

もう、息をするのが、やっとっていうくらい。

かといって、対処法も見つからない。

正直、あれから、いろんな友達に相談したりして、みんなでいろいろ考えてたんだけど、やっぱり、これといった答えが見つからなかったんです。

中には、おっさんを袋叩きにしてやろう、なんていう過激な意見もあったんだけど、いっても、おっさんがいつ現れるのかなんて分からないし、たとえ、もし袋叩きにできたとしても、だからって通報が終わるわけじゃあない。
たぶん、余計にひどくなるだけだ。

結局、警察っていう存在がある限り、この仕事に関しては、僕は何も動きようがないのだ。

はじめに、最後まであがく、やれるだけやってみる、って言ってはみたけども、そろそろ精神的に限界が近づいてきていた…。

(もちろん、収入的にも、激減なので、その面でもやばいのだが…。)

あくる日。

よく聞いてよ。次の日やで、次の日。

なんとかかんとか仕事場に向かうと、いつも歌っている場所の100メートルくらい手前で、最近の事情を知る顔見知りの客引きのおばちゃんに引き止められた。

「ちょっと、にいちゃん、行ったらあかん!
あのおっさんが、そこのカレー屋から、にいちゃんが来るの、ずっと見張ってるよ!」

えっ!?

ええええええ!?

ほんまかいな!?

言われた通り、そのカレー屋をそっとのぞいてみる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ほんまにおる…。

この店は、1階がガラス張りなので、中の様子が見えるのだが、1階の出口に一番近いところに、ほんとにあのおっさんが座ってるのだ…。

ありえへん…。

どこまで必死やねん!

昨日の今日やで。

完全に気が狂ってる…。

ただ、おばちゃんに引き止められたおかげで、おっさん、まだ僕の存在には気づいてない。

ん?

これは使えるかも…。

いい事を思いついた!

このままおっさんの様子を、逆にこっちが、バレないように観察しつづけて、おっさんがあきらめてカレー屋から出てきた時に、そっと尾行するのだ。

僕は、この飲み屋街で働く友達の原付バイクの合鍵を、いつも持ち歩いてる。

これを使う時が来たのだ。

おっさんは、きっとタクシーに乗るだろうから、それをその原付で尾行するのだ。

おっさんの住んでいる所さえ分かれば、これからまた、新しい対処法が見つかる可能性が大きくでてくるではないか!

すげー!

チャンスや!

アドレナリンが一気に噴き出して、心臓がこれでもかというぐらいバクバク動き出す。

まず、その友達に急いで電話する。

彼は仕事中だったが電話に出てくれ、快く原付の使用許可を出してくれた。

恩に着ます。

僕は、その原付を自分の目の前まで移動させ、ヘルメットもあらかじめ出しておいた。

メットインのなかには、ヘルメットのほかにも、濃い色のサングラスが入ってあった。

これも、役に立ちそうだ。

次に、持ってきた弾き語り道具を、顔見知りの飲み屋さんに全部預ける

よし、これで身軽だ。

さあ、準備は整った。

後は、おっさんが店から出てくるのを待つのみだ。

あー、ドキドキする…。

なんか、探偵になったみたいや。

けど、悠長なことは言ってられへん。

なんせ、僕の仕事の運命が、ここにかかってるんやからなあ。

5分後

どうやら、おっさん、カレーを頼んでたみたい。

そりゃ、カレー屋やもんな。

カレーが運ばれてくる。

食べ始める。

その間も、ちらちら後ろを振り返り、僕がいつも歌っている場所を確かめている。

15分後

カレーを食べ終わる。

もちろん、何度もうしろを振り返る。

30分後

明らかに、手持ちぶさたにしている。

しかし、後ろは振り返る。

45分後

突然、テーブルに突っ伏して、眠りだす。

待ち疲れてきたんだろう。

しかし、俺の事は、いいんだろうか。

音が聴こえたら、起きるつもりなんだろうか。

1時間後

まだ、寝てる…。

だんだん、イライラしてくる。

今すぐ店に入って、金属バットででも、思いっきりどつきまわしたい衝動にかられる。

店の店員は、おっさんが寝てることに対して、それほど気にしていない様子。

1時間半後

突然ムクっと起き出し、レジに向かう。

あっ、出てくる!

うーわ、いざこーなると、めちゃくちゃ緊張する…。

がんばれ、俺!

カレー屋を出たおっさんは、周りをきょろきょろしながらも、やはり予想通り、タクシー乗り場に向かった。

僕も、急いでヘルメットとサングラスを装着する。

エンジンをかける。

おっさんも、ちょうどタクシーに乗り込む。

さあ、出発だ!

尾行開始!

うわー、こんな本格的な尾行はじめてやー。

おっさんに、バックミラーでバレないように、適度に距離を保つ。

あかん、ほんま緊張する。

手のひら、汗でびっしょりや。

おっさんを乗せたタクシー、やたらチョコチョコ小道を曲がる。

そんな小道ばっかり行ったら、俺、バレてまうやんけ。

たぶん、運転手なりの近道を選んでるんだろう。

いらんことせんでええっちゅうねん。

それとも、このおっさん、案外家が近いのかもしれない。

ドキドキ。

とにかく、尾行をつづけること約10分

しかし、この尾行劇は、ものすごいあっけない終わりを迎えてしまう。

ほんと、読んで下さっている方には、期待だけさせてしまって、大変申し訳ないです。

タクシーは高速道路の入り口に入っていってしまったのである…。

知っている方も多いとは思いますが、原付は高速道路を走る事ができないんです…。

ええええええ!!!!!?????

うっそーーーーん!?

ほんと、すいません。

けど、

これが、現実なんです…。

実話だからしかたがない…。

志半ばでの、尾行断念

悔しすぎる…。

けど、よく考えたら、あのおっさん、高速乗らな来られへんような遠い場所から、わざわざいつも俺の邪魔をしにきとったんやなあ。

ある意味すげーな。

どんな金の無駄使いや…。

あー、けど、やっぱ悔しい。

めちゃくちゃ悔しい!

突然生まれたわずかな希望に、一気にすべての期待を注いでしまったから、その反動が大きすぎる。

あー、もーーーーー!!!

結局、またふりだしに戻ってしまった…。

この後、結局おっさんは、毎日のように、僕の前に現れるようになった。

もう、警察も黙ってはいない。

最後通告を出された。

次、一回でも通報があったら、即検挙

本気である。

この時点で、僕の負けが決まった…。

さあ、そうと決まったら、涙をふいて、前向きにものを考えるしかない。

もう、最善は尽くした。

できるだけのことはすべてやったのだから。

さあ、どうする!俺!

しかし、案外、答えは簡単にでてしまった。

場所を変えてやればいいのだ。

なんて、単純で、明快な答え…。

なんで、こんなことが思いつかなかったのだろう。

おそらく今までは、「仕事場=今までの場所」という図式が、頭の中に出来上がってしまってたんだろう。

ただ、場所を変えるというのは、そんなに簡単なことではない。

ここの飲み屋街、かなり広いから、スペースはいくらでもある。

けど、スペースがいくらあっても、儲かる場所っていうのは、すごく限られるのだ。

この仕事で儲けようとするには、ほんといろんなファクターがかみ合わないといけない。

その中でも、場所選びっていうのは、一番重要なポイントなのである。

さらに、やはりここは飲み屋街。

いくら儲かるからといって、内部に入っていってしまうと、そこはもう、ヤ○クザさん達が管轄する場所。

とってもじゃないけど、勝手に商売なんぞ出来るところではないのだ。

となると、残された場所は、もう飲み屋街の外堀(出口など)しかないわけである。

僕が、今までやってきた場所は、ここの一番のメインストリートの出口付近である。

ここは、いろんな道が交差しているから、この飲み屋街の中では一番人通りが多かった

もう、他にこんな一等地はない。

それに、今まで7年も8年も同じ場所でやってきて、常連さんも増えまくった状況にいた僕が、この歳になって、また新たな場所で、新しい常連さんをつくりながらいちから仕事を始めなおすっていうのは、聞いてる分には簡単そうに聞こえるかもしれないけど、実際は、物凄い気力と体力と精神力の必要なことなのである。

だから、今までは、無意識にその考えだけは避けてきたのかもしれない。

けど、今の僕は、そんな贅沢は言ってられない。

その日から、歯を食いしばって、ぐるぐると、外堀を歩いて探索してみた。

しかし、長年の経験からいって、ちゃんと儲けられそうな場所はほっとんど無かった。

ひとつだけ、まだ、ギリギリましそうな場所を見つけた。

なんだか薄暗いし、人通りも、今までの場所に比べると、そりゃあ天と地の差ぐらいあるけど、なんか、僕の仕事的第六感が反応するのである。

けど、ここは、周りにお店がならんでる。

どう考えても、マイクを使った僕の演奏じゃ、店の中まで音が聞こえてしまう。

次の日から、僕は、お茶菓子を持って、めぼしい店に挨拶にまわった。

まあ、この時や、この後の周りのお店との関係やトラブルは、機会があればまた詳しく話します。

とにかく、僕は、8年目?、9年目?にさしかかったところから、心機一転、この新しい場所でお仕事“弾き語り”を再スタートさせたのだ。
(この時期のお話も、また今度しますね。)

それが、だいたい一年前のことである。

もちろん、あれから、あのおっさんは一度も現れていない。

さあ、ここまで、こんなにも長々と4回にも分けて、思い出を振り返ってきたが、結局、何が一番言いたかったのかというと、実は、島田S助さんに初めて出会ったのは、この新しい場所でのことなのである。

もう一度言う。

島田S助さんに初めて出会ったのは、この新しい場所でのことなのである。

これが、何を意味するか。

みなさん、お分かりになるだろうか?

そう、

あのおっさんに出会ってなければ、僕は島田S助さんに出会うことはなかったのだ。

まだ、何にも詳しくは説明していないが、僕はおそらく、これから、S助さんとは長いお付き合いになっていくと信じている。

その大事な出会いのきっかけは、さかのぼれば、あのおっさんなのである。

ここで、僕のブログのタイトルを思い出してほしい。

僕は、今まで、いつもこの言葉に助けられてきました。

ノーレイン ノーレインボー

この言葉には、こんな意味がある。

雨が降るから、虹が出る。

美しい虹が出るのは、嫌な土砂降りの雨が降ったからなのだ。

つまり、つらい事や悲しい事があったからこそ、のちに素晴らしい幸せが待っているのだ。

ということ。

まさしく、今の僕が、ノーレイン ノーレインボー。

皆さんも、何か悲しいことやつらい事があった時、是非この言葉を思い出してみてください。

きっと、その悲しみは、いつか未来の幸せのための悲しみなんです。

そう思えれば、きっと、いくぶんも楽になれますよ。

さあ、合言葉は

ノーレイン ノーレインボー !

ん?なんか、宗教みたい?(笑)

おわり!

追伸

実は、新しい場所に変わってから、S助さんに出会ったこと以外にも、まだ他にも素晴らしいがあるんです。
それもまた、おいおい話していこうと思います。

ほんと、こんな長い文章を、最後まで読んでくださってありがとうございました。

これからも、よろしくお願いします。

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2006年8月24日 (木)

悲しみの果て

続き…
(今回は、かなり汚い言葉がたくさん出てきますんで、先に言っておきます。)

走りながら、僕は考えた。

いくらなんでも、直接まじめに本人に謝れば、気が済んで、ゆるしてもらえるんではないか。と。

急いで交番にたどり着いた僕は、勢いよくドアを開ける。

いた。

あのおっさんがお巡りさん2人に対して、ものすごい大声で怒鳴っている。

そして、僕の存在に気づく…。

「あっ、こいつや、こいつ!

警察は何をしとんねん!

なんで、まだ、こんな奴があそこで歌っとんねん!

俺は何べんも通報したやないか!

やめさせろって!

おまえらは、職務怠慢か!」

お巡りさんは、なんともいえない顔をしている。


「あの、この前はどうもすみませんでした。
そちらの気を悪くさせてしまったみたいで…。
すごく反省してますので、どうか通報だけは許していただけないでしょうか。」

「あかん!!

誰が許すか!!

俺はお前に人生を否定されたんじゃ!

忘れたとは言わせんぞ!」

「あの、あの時は、こちらとしてはそういうつもりではなかったんですけど、誤解とはいえ、そちら側にそういう風にとらえられてしまったんなら、それは大変申し訳なく思っています。
僕はずっとあの活動だけで生活していまして、これが出来なくなってしまうと、生活できなくなってしまうんです。
どうか、なんとか許していただけないでしょうか。」

「しるか!ボケっ!

あれだけで生活してるやとー!

嘘ばっかりつくな!

俺は10何年、○○に通っとんねん!

この前が、お前見たん初めてじゃ!

しょっーもない歌で、しょーもない客から金取りやがって!

この乞食が!

とにかく、俺はお前の人生めちゃくちゃにしたるんじゃ!

どっかで野垂れ死にしてまえ!」

次は、お巡りさんに向かって、

「あんたらも、あんたらや。

俺はあんだけここに言いに来たやろー!

あそこで、二度とこのへたくそにやらすなって!

ちゃんと仕事せんかー!

庶民の通報やろが!

俺は年収1000万以上あんねん!

おまえらはなんぼじゃ!

そんな俺がこんな乞食に人生を否定されたんや!

わかるか?

それに、あそこは公共の道路やろがい!

そんなところで、勝手にへたくそが歌ったら、道路交通法違反ちゃうんかい!

許可は出しとんかい、許可は!

おー!?」

お巡りさん
「おとーさん、まあ、興奮しないで。
確かに、路上演奏に許可なんて出ないですよ。
今まで、苦情を受け付けたのが、私じゃないんでなんとも言えないですけど、そういうことであれば、これからはちゃんと取締りを強化して、彼にこれから二度とあそこで歌わないようにしてもらいますから。」

頭がパニックになる。

あそこで歌えなくなる?

一瞬、言葉の意味が飲み込めない。

間をおいて、いままで8年間のさまざまな思い出や言葉達が、洪水のように頭にあふれ出す。

これは現実なんだろうか?

こんなことで僕は大事な大事な仕事を失うんだろうか?

こんなことで…。

気づくと、体が勝手に動いていた。

僕は土下座をはじめていた…。

これでもかというくらい頭を地面にこすりつけて…。

体がぶるぶる震えだす。

同時に、自然と涙があふれ出す。

止まらない。

言葉も言葉にならない。

「ゆるしてください。ゆるしてください。かんべんしてください。かんべん…。」

「やめなさい、こんな所で。」

両脇から、お巡りさん2人が僕を抱きかかえようとする。

僕は土下座をやめない。

おっさんの足にしがみつく。

「ゆるしてください…。」

「汚い!さわるな!

うそ泣きなんかしやがって!

このうそつきが!

お巡りさん、こいつを信用しちゃいけませんよ。

こいつはうそつきですからね。

そんで、また、へったくそなくせにあそこで歌いやがって。

私もね、歌がうまかったら、こんな通報なんてしないんですよ。

僕は、家が音楽一家やから、すぐ分かるんですよ。

こいつが、どうしようもないくらいへたくそやってことは。

あー、そうや、優秀な弁護士が知り合いにおるから、法律の面から、こいつを潰したろーかなあ。

交番で言うのもなんやけど、ミナミにヤ○ザの知り合いもおるから、そっちでもいいなあ。」

お巡りさん
「おとーさん、それはおかしな話ですよ。」

「やかましい!

おとーさんなんて、気安く呼ぶな!

おまえらは何様じゃ!

このペーペーが!

俺は、○○警察の幹部にも知り合いがおんねんぞ!

△△さん、って知っとるやろがい!

こいつらは職務怠慢やって、言いつけるぞ!」


「とにかく、これからは、あなたが通る度に、すぐ演奏をやめますし、いつ○○に飲みにこられると教えていただければ、その日はここにやってきませんし。
それではいけませんか…?」

「あほか!

俺は、お前から生活を奪うんじゃ!

お前は、西成のあいりんでも行って、おこぼれの仕事でももらっとけ!

ええか、俺はお前に人生を否定されてんからな。

一生忘れへんぞ!

もし、まだやっとったら、これからも何べんでも、通る度に通報したるからな!」

土下座を続ける僕を、お巡りさんは2人がかりで、無理やりイスに座らせた。

お巡りさん
「あのね、おとーさんの言い方は確かにちょっときついかもしれないけど、この件に関しては、完全に君が悪い。
おとーさんが正しい。
おとーさんの言うとおり、あそこは、公共の道路や。
国の所有物や。
そこで、何の許可もなく、勝手に歌って、お金を儲けるっていうのは、法律的に厳密にいうと、犯罪や。
まあ、お巡りさんも、君がずっと歌ってるのは知ってるし、悪いことをしてるわけじゃないのは分かってたから、今まで止めなかったけど、今回君は、このおとーさんにケンカをふっかけたんだろ。
そうなってくると、話は別だ。
私達も黙ってるわけにはいかない。
これからは、通報があろうがなかろうが、君が歌っている限り注意するし、それが続くようなら、検挙っていうかたちになるよ。
だから、もう、やめにしなさい。」

また、頭の中が真っ白になる。

どうやら、ほんとうにこれで、20歳から今までの長い弾き語り人生が終わりになってしまうようである。

こんなきっかけで…。

こんなあっけなく…。

こんなおっさんによって…。

ああ、引き際ぐらい、自分で、カッコよく決めたかったなあ…。

突然、呼吸が乱れてくる。

実は僕には、過換気症候群という持病があって、ごくまれにパニックになった時に、発症するのである。

それが、今発症してしまったのだ。

呼吸が困難にになり、手足がしびれてくる。

苦しい…。

この病気にはペーパーバック療法という治し方があり、お巡りさんにビニール袋を借りる。

この病気、ようは過呼吸なので、酸素を吸いすぎているわけだ。

だから、ビニール袋を口にあて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

そうすることによって、自分の吐いた二酸化炭素を自分で吸うことができるのだ。

すー、はー、すー、はー。

なかなか、おさまらない。

しびれが体中に広がってくる。

それを見ているおっさんは、また大声を張り上げる。

「しょうもない演技しやがって!

このうそつきが!

俺はだまされへんぞ!

そんなことしたって、絶対俺はお前を許さへんからな!」

まあ、とにもかくにも、この後もこのおっさんの罵倒は繰り返され、15分ぐらいしてから、ようやくおっさんは交番をあとにした。

交番に残った、僕と2人のお巡りさん。

僕は、まだしびれがとれてない…。


「すいません。ご迷惑かけて…。」

お巡りさん
「少しは落ち着いたか?
まあ、かなりすごいおっちゃんやったけど、そもそも君もなんであんなおっちゃんとケンカしたんや。」


「…はい。あまりにも理不尽な事ばかり言ってきはったもので…。」

お巡りさん
「んー、それでも、君はあそこで歌って、決していいことをしてるわけじゃないんやから、そこは我慢しなきゃあかんところやろーに。」


「はい、その通りです…。」

お巡りさん
「それで、あれだけで生活してるってほんまかいな?」


「はい、ほんとです…。」

お巡りさん
「そんなに儲かるもんなんかいな。
ほんで、君はいくつなん?」


「28です…。(当時)」

お巡りさん
「28にもなって、あれだけで生活っていうのもあかんやろ。
そろそろ、まじめに働き。
さっきは、お巡りさんも、おっちゃんの手前、すぐやめさすって言ったけども、君も生活がかかってるんやったら、すぐっていうわけにはいかんやろ。
ここからは、お巡りさんとしてじゃなくて、完全に一人のいち個人としての言葉やから、先に言うとくぞ。
まず、おっちゃんに会わんように、来る回数を減らし。
それで、徐々に減らしていって、その間に何か新しい仕事を見つけなさい。
まだ若いねんから、いくらでも仕事はあるやろう。
もし、おっちゃんがまた通るようなことがあったら、おっちゃんが交番にくる前に、すぐに片付けて、帰ってしまい。
俺達も、毎回毎回同じ事してられへんからな。
これは、お巡りさんとしての言葉じゃないからな。分かってや。
ほんなら、今日はもう帰り。」


「…はい、ありがとうございました…。」

交番にいた時間、1時間近く…。

僕は、涙をぬぐって、ふらふらとしながらも、交番をあとにした。

続く…。

 

「ノーレイン ノーレインボー」

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2006年8月22日 (火)

現実

続き…。

ちょうど二週間後の金曜日。

僕は、すっかり前回の件の事など忘れていた。

とにかく、この日は忙しかった。

夜12時をまわったあたりで、お巡りさん登場…。

前回と同じお巡りさんだ。

「また、苦情が入ったよ。悪いけど片付けてね。」

「えっ!?
もしかして、また、この前と同じ人ですか?」

「そう。だから今日は無理だね。」

「…ああ、そうですか。分かりました。」

んー…。なかなかしつこいおっさんや。

まだ、覚えとったんかいな。

しかし、いつ通ったんやろー?

全然気づかんかったわ。

そんで、なんで今回は俺の所に直接文句言ってこうへんかったんやろう?

俺のとこにお客さんがおったからやろか?

あー、タチがわるいなあ

すぐ警察に行かれたら、こっちも手の打ちようがないやんけ。

それに俺、正直あのおっさんの顔ほとんど覚えてへんわ

どないしよう。次通っても、たぶん認識できへんで

とにかく、二週間のあいだに2回も警察に止められるなんてことは、いままで長くやってきた中で初めてである。

それも、同じ人物に通報されるなんて。

両方、忙しい金曜日なので、普通に金銭的にもすごく痛い

ちょっと、心配になってくる…。

二週間後の火曜日。

時間はちょっと違うが、前回とまったく同じ事が繰り返される…。

ただ、今回はお巡りさんがいつもと違う人だった。

どうやら、あのおっさんは警察にも罵倒をくりかえしたらしい。

3回目ということもあって、少し、お巡りさんも僕に対して怒ってる感じだ。

心配が、不安に変わってくる…。

一週間後の金曜日

この一週間僕はずっと、仕事しながらも通る人をほんとに注意深く観察しつづけた

いつ、あのにっくきおっさんが通るかもしれないからだ。

やはり、あんまり顔は覚えてないが…。

とにかく、今度こそ、警察に直行される前になんとしてもここで引き止めなければ。

ただ、ここで言っておかなくてはならないのは、僕はおっさんに会って、なにもまたケンカしようとしている訳ではない。

じゃあ、何をしようとしているのかというと、

謝ろうとしているのだ…。

そりゃあ、僕にもプライドってものがあるから、ほんとはいくらでもおっさんとケンカしてコテンパンにしてやりたいし、こっちにそこまでの非はないことぐらい分かってるけど、

これが僕の仕事なのだ。

夜の飲み屋街で何の許可も無く道で歌うっていうことは、こういうことなのだ。

今までずっとあまり大きなトラブルなしにみなさんに応援してもらってやってきたから、少し僕の中にオゴりがあったのかもしれない。

警察に通報されるぐらい怒らせてしまった時点で、僕の負けなのである。

警察がでてきたら、僕は何の反抗もできない。

それだけ弱い立場なのだ。

それを忘れてはいけなかったのだ。

こんな事が続くと、仕事にならん。

そりゃ、もちろんすごく悔しいけど…。

11時頃、僕は2人のお客さんに向かって歌っていた。

その最中、僕の事をにらみつけながら通り過ぎるサラリーマンを発見。

白髪交じりである。

あっ、たぶんこのおっさんや!

やっと見つけた。

心臓がバクバクしだす。

ただ、今僕は、お客さんに歌ってる真っ只中である。

ああ、もう、行ってしまうっ。

仕方ないので、歌いながらも、おっさんの行き先を必死に目で追う

横断歩道をわたり、交番に入っていった…。

やっぱり、そうや!

こうなったら、もう歌どころではない。

ギターケースをバタンと足で閉め、

「すいません、また今度ちゃんと歌いますんでっ。」

と、お客さんに早口で弁明して、僕は走り出していた

すみません、今日はこのくらいで限界です。

おやすみなさい。

また、続く…。

 

「悲しみの果て」

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2006年8月21日 (月)

キレてないですよ!

現状にブログを追いつかせるためにも、少しつらいことを思い出して書こうと思います。

かなり長くなってしまいそうなんで、一気に書けるかどうか分かりませんが、先に謝っときます。

ちょうど1年くらい前のこと。 (虎舞竜じゃないよ。)

その日僕はすごく疲れていた。

今思えば、そんな日は仕事にでるべきじゃなかったのかもしれない。

ある金曜日、一人の40代ぐらいの白髪交じりのサラリーマンが僕の前で立ち止まり、こう言った。

「へたくそ!」

と、こんな事は日常茶飯事でよくあることなので、普段僕は適当にやり過ごす

やはり、周りから見たら僕みたいないわば一般人が勝手に道で歌ってるわけだから、万人が良いと思ってくれるわけはない。
歌が気にくわない場合も多々あるだろう。
そういう場合は、自分勝手で大変申し訳ないんだが、歌が聴こえるほんの少しの間だけ我慢してもらって、そのまま素通りしてもらうのが一番ありがたい。

ただ、それでもやはり、「へたくそ!」などと罵倒されることは残念ながらちょくちょくある
なんといっても、ここは夜の飲み屋街なんだから。
けど、そういう方をいちいち気にしてると自分の商売として成り立たなくなってしまうので、極力適当にあしらい、やり過ごす。

ただ、今回はいつもと少し違った。

何が違うかというと、僕はまだ何も歌ってなかったのだ…。(苦笑)

何も歌ってない人に対して「へたくそ」とは、なかなか上等な無理問答である。

ああ、めんどくさいおっさんが来たなと思っていると、

「千円やるから、もっとまともな歌うたえ。」

と言って、そのおっさんはギターケースに投げ捨てるように千円札を入れた。

ああ、ほんまうっとーしいおっさんやなあ。

「へたくそ」っていいながら、なんで金入れんねん。

金入れられたら、こっちも商売やから歌わなあかんやんけ。

もー、ややこしいなあー。

「お好きな歌はあるんですか?」

しぶしぶ聞く。

「しらん!そっちが決めろ。」

あー、ほんまうっとーしい。
もうなんでもいいわ。
適当に歌ってまお。

僕は、その時たまたま楽譜が開いてあった、河島英五さんの「酒と泪と男と女」を歌うことにした。

イントロが終わり、歌いだす。

「忘れて…、」

「やめろ!へたくそ!もっとまともなん歌え!」

えっ?

まだ、「忘れて」としか言ってないよ?

なんじゃ、このおっさん。


「まだ、ちゃんと歌ってませんやん。」

おっさん
「あほ、俺は音楽詳しいからそんなんすぐわかんねん。
へたくそ。」

・・・・・・・・・・・。

あかん、もう我慢できへん…。

ああ、けど、この時僕がいつものように仕事としてちゃんと我慢できていれば、あんなことにはならなかったのに…。

ほんとに、いつもならこのくらいのことは我慢するのだが、その時はすごく疲れていたのと、長年これだけでやってきたという自分自身のオゴりが、ここで出てしまったのだ。

これがすべての始まりになってしまった…。

「ごちゃごちゃうるさいおっさんやのー。
気にくわんのやったら、金なんかいらんから、とっとと帰れや!」

「何?」

「おっさん、はじめから歌なんか聴いてへんやんけ。
ただ、文句言いたいだけやろ?」

「家は音楽一家やから、お前がへたくそなことぐらい見ただけですぐわかんねん。
嫁は声楽習っとんじゃ。
俺はいつもクラシック聴きにいっとんねん。」

「はあ?そんな事誰も聞いてへんわ。気持ちわるいのー。
ほんで、へたくそや思うんやったら、いちいち立ち止まんなや。
だれも、おっさんに聴いてくれなんてたのんでないねん。
こっちも聴いていらんし、金なんかいらんから、この千円持って、はよ帰れや。」

「…お前、誰に向かって口きいとんねん。」

「知るか!」

「俺は10何年○○に飲みにきとんねん。
年収も1000万あんねん。
お前ごとき、ここで歌われへんようにするぐらい簡単やねんからな。」

「だから何やねん。そんなもん知ったこっちゃあるか。
ただの、こんな街の弾き語りにからむしか楽しみのない、しょーもない人生やんけ。」

「なんやとー?
今、お前俺の人生否定したな!
覚えとけよ、この乞食が!」

「おお、なんぼでも否定したるわ。
とにかく、商売の邪魔やから、とっととどっか行けや。」

「こっちも、お前みたいなへたくそな歌聴かされたら、通行の邪魔じゃ。
警察通報するぞ!」

「通報でも何でも好きにせえや。
とにかく、俺は今仕事せなあかんねん。
歌うるさいんやったら、おっさんが見えへんようになるまで歌わんといたるから、とにかく早くどっか行ってくれ。」

「ばかにしやがって。覚えとけよ!
お前の人生めちゃくちゃにしたるからな!」

「もう、分かったから、なんせ邪魔やねん。
早く消えうせろ!」

とにもかくにも、そのおっさんは依然ぶつぶつ言いながらも、立ち去っていった…。

あー、めんどくさかった。

そう思いながらも、僕は仕事を再開させた。

3、4分後、お巡りさんがやってきた…。

実は、僕が演奏している場所は、道路をへだてて5,60メートル先に交番があるのだ。

どうやら、さっきのおっさんがほんとにその交番に通報したみたいだ。

お巡りさん
「あー、なんか苦情が入っちゃったみたいだから、すぐ直してね。」


「分かってます。白髪交じりのサラリーマンの人でしょ。」

お巡りさん
「そう。」


「分かりました。すぐに片付けます。
お手数かけてすみません。」

お巡りさん
「うん、じゃあよろしくね。」

と、まあ、なんともライトな会話が交わされる。

実は、まだ言ってなかったが、このライトな会話からも分かるように、僕とこの周辺のお巡りさんとは、昔からなんだか微妙な関係にある。

長くやっているせいで、ちょっとした名物になっているのはお巡りさん達もよく知っていて、普段はやみくもに僕を止めたりせず、ずっと見てみぬふりをしてくれており、何か通報があった時だけ、止めにくるのである。

そして、止めにきたとしても、強制的に止めるなんてことはせずに、僕を信用してくれていて、このような口頭注意だけで終わる場合がほとんどなのだ。

この日も、僕のことをよく知っているお巡りさんだった。

気持ちはよく分かるけど、警察側としても、今日だけは片付けて帰ってくれ、ということだ。

金曜日なので、金銭的には痛いが、まあ今日はしかたない。

こういうたぐいの苦情や通報は、ごくたまにある。

まあ、慣れっことまではいかないが、そこまで深くは考えない事にしている。

なぜなら、なんといってもここは飲み屋街。相手もおそらくお酒が入っているからである。

だから、次訪れた時は、完全に忘れてしまっているか、もうどうでもよくなっている場合がほとんどなのだ。

同じ相手がまたからんできたり、通報してきたなんてことは、今まで一度もない。

それに、いくら仕事だといっても、やはり我慢の限界ってものが僕にもある。

あまりにも理不尽なことを言われつづけると、さすがに頭にくる。

まあ、今回はちょっと安易にキレてしまった部分も否めないけど…。

とにかく、僕はこの日の事をあまり深刻には考えていなかった。

しかし、それはとんだ大誤算だった…。

やっぱ、次へ続きます…。

 

「現実」

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