「前編」からの続き…
それからというもの、僕の大学生活はほんとに楽しいものになっていった。
いい意味でどこか吹っ切れて、徐々に女の子とも気軽にしゃべれるようになっていったし、そのおかげで仲間もたくさん増えた。
その中でもやはり、僕は「ゆん」とは特に気が合って、大学にいる間は自然と彼女のグループと一緒にいる時間が多くなっていった。
僕以外にも、彼女の周りには男女問わずいつも自然と仲間が集まってきたのだ。
ゆんは、その年、大学入学のために関西に出てきた愛媛出身の女の子。
現役だから、僕より一つ下の18歳で、大学の近くの小さなアパートに下宿していた。
前回の出来事だけを読めば、なんだかいわゆるただの「不思議ちゃん」かと思われるかもしれないが、彼女はそんなもので定義できるような薄っぺらい人ではなかった。
彼女の中には、大きくて独特な世界観があり、天真爛漫なようでも、そこにはしっかりとした芯があった。
個性的な幼い声で話す話の内容は、いつも優しさやユーモアであふれていて周りにいる人達を笑顔にしたし、なにより彼女は頭の回転が早かった。
そして今、僕は思う。
いくらなんでも、明らかに褒めすぎだと…。(笑)
とにかく、
あれからというもの、彼女のそばでいつも刺激を受けていた僕にとって、ゆんはまるで、毎日何が飛び出すか分からない「おもちゃ箱」みたいな存在だったのである。
そして、すぐに、あの「ドラミちゃん」の謎も解明した。
それは、仲間達みんなで初めてゆんの部屋に遊びに行った時。
僕がトイレを借りようとしてその扉を開けると、確かにそこにいたのだ…。
流しの上でこちらを向いて笑う小さなドラミちゃんの人形が…。
…いやいやいや、
だからといって、たったこれだけのことを、なんであんなタイミングで、あんな言い方で言うの?
そう、それがゆんなのである。(笑)
またある日、僕はゆんの意外な一面を発見した。
これも、みんなで初めて行ったカラオケボックスでのこと。
その日、僕はみんなの前で初めて自分の歌声を披露するということで随分緊張していた。
見知らぬ人に向けての無責任な路上弾き語りはもう何年も続けてきたけど、こうやって改まって友達の前で歌を歌うなんてことは初めてだったからだ。
それでも、いざ歌ってみると、みんな僕の見た目とのギャップに驚いたんだろうか、なんだか照れくさいほどに僕の歌を褒めてくれるし、それは僕が少しうぬぼれだしてしまうほどの勢いだった。
あれ?俺ってほんまに歌上手いんちゃう?
けど、そんな僕のわずかな自信も、次に歌ったゆんの歌を聴いて一瞬にしてどこかに吹き飛んでしまう。
失礼な言い方かもしれないが、予想以上に彼女の歌が素晴らしかったからである。
いくら彼女に一目置いているとはいえ、正直言って、僕はまさか彼女にそういう「音楽」的な才能があるとまでは思ってもみなかった。
だって、(それは向こうからしても同じだったのかもしれないけど)普段の彼女から今まで音楽の匂いなんてものは全く感じたことがなかったし、考えてみると僕達はそんな話すらしたことがなかったから。
だから、自分の歌を褒められて浮かれている僕にとって、それはかなり不意を突かれる衝撃的な出来事だったのだ。
彼女が歌ったのは、中谷美紀の「MIND CIRCUS(マインド・サーカス)」。
偶然にも僕の大好きな曲だったんだけど、決してそんなことだけではない。
歌うことでより際立つ個性的でキュートな声。
誰のモノマネでもない彼女独特な歌い方。
技術的に上手いとかどうとかいう単純な話ではなくて、僕にはそれが彼女の魅力あふれるオリジナル曲のようにすら聞こえたのである。
そして今、僕は思う。
今回のこれは、特に褒めすぎてるわけじゃないと…。(笑)
とにかく、
そのくらいゆんの歌は良かった。
ただ、「MIND CIRCUS」自体がそこまで有名な曲というわけじゃなかったからか、周りのみんなの反応は僕の時に比べてかなり薄く、僕にはそれが不思議で、また少しもどかしくもあった。
え、なんでみんな今の歌の凄さが分からんの?
今のんに比べたら、俺のなんてただのまやかしやん!
とにかく、感動した僕は、すぐに歌い終わったゆんの横に席を移し、興奮気味に彼女に話しかけた。
「わー、わー!ゆんちゃん!めっちゃ歌すごいやん!
ゆんちゃんって、なんか今まで音楽とかやっとったん?」
「えっとねー、特に音楽はやってないけど、おウチではちっちゃい頃からよくピアノを弾いて遊んでたよ。」
「そっかー。ゆんちゃんって、絶対音楽の才能あるねんで。
なんかやった方がいいかもよ。」
「わー、ありがとー。そんなに褒められたん、初めてかも。」
さて、
ゆんの「おもちゃ箱」の中から新たに「音楽」というものを発見したその日から、
共通項のできた僕達はますます仲が良くなっていった。
そして、この頃からなぜか仲間内の中でも音楽を使った遊びが始まり、
僕達は数人でなんちゃってバンドなんかを組んでみたり、なんちゃってオリジナルソングを作って、僕のなんちゃって実家でなんちゃって多重録音をして、なんちゃってデモテープをなんちゃって作ったりした。なんちゃって。
時には、僕とゆんの2人だけで歌を作ることもあった。
こういう遊びっていうのは、いくら遊びとはいえ、今までずっと一人に近い状態で弾き語りを続けてきた僕にとって(「チャゲ&京橋」は例外)、「これぞ求めていた青春だ」というぐらい刺激的で楽しいものだったし、
地方の愛媛から出てきたばかりで、まだ自分の可能性に気付いていないゆんにとっても、それは同じことが言えたんではないだろうか。
それから2年が経ち、僕が大学を中退してからも、二人の友人関係は続いた。
さらに、この頃になるとゆんは、自分の部屋でおもちゃのキーボードを使って一人で夜な夜なオリジナルソングを作り出すほどになっていて、曲が出来上がるとそれをテープに録音して、よく僕にも聞かせてくれた。
その頃の彼女にとっては、環境的にもまだ、音楽の面で頼れる人間は僕ぐらいしかいなかったのかもしれない。
ただ、そのオリジナルソングというのはどれも、僕がどうこう言うのもおこがましく感じてしまうほど本当に素晴らしいものばかりで、
もちろんそれはただ部屋で軽く録音しただけのデモテープなので、全くの完成系というわけではなかったんだけど、それでも、曲自体は決してもう以前のお遊びソングとは比べることが出来ないぐらいにクオリティの高いものだった。
彼女は、このたった数年の間で、自分の中に溢れる独特な世界観や魅力を、しっかりとオリジナルソングというものの中に詰め込むことが出来るようになっていたのである。
やっぱり、ゆんの中には「音楽」がいっぱい眠っていたんだ!
やっぱり、ゆんは凄い人だったんだ!
僕は、自分の直感が当たっていたことに満足する気持ちと同時に、ちゃんとしたオリジナルソングなど全く作れない自分の才能の無さを恥ずかしくも思い、ますますゆんに対し一目も二目も置くようになった。
そして、本格的に曲作りを始め、自分の中に眠っていた「音楽」や可能性にどんどん目覚め始めた彼女は、
ごく自然な流れとして、しだいに不特定多数の人々にも自分の音楽を聴いてほしいと願うようになる。
それには僕も大賛成だった。
だって、そうじゃないと、曲を作っては僕や数人に聞かせるだけのこんな状況は、あまりにももったいなすぎるじゃないか。
そこで僕達は、手始めに、ピアノが置いてある小さなバーや飲食店など、ゆんが定期的にオリジナルソングを歌えるような場所がないか一緒に探すことにしたんだけど、
そうは言ってもやはり、この時点ではまだ彼女は人前で歌を歌ったことがほとんどないような状態だったので、店の事情や、ひとりぼっちで歌わなければいけないという彼女自身の繊細な気持ちを含め、なかなかそれもうまくいかなかった。
そんな中、彼女の中に
「じゃあ、一人じゃなくてバンドを組んで音楽活動をする」
という新しい選択肢が生まれる。
僕は、そちらも大賛成だった。
ただ、
この頃まだ自分にも目指す音楽があった僕としては、だからといって彼女のバンドメンバーとして一緒に活動するという決断をするわけにもいかず、
ただただ、これからも彼女を応援してあげようと思うことぐらいしかできなかったんだけど…。
そして、ある日。
ゆんは、楽器屋さんに張ってあったというある紙切れを持って僕のもとにやって来る。
そこには、
「ポップスバンド、女性ボーカル募集!」
という文字、そしてギターとベースの男子メンバー2人の紹介と携帯番号が書かれてあった。
「いいやん、ゆん!
これこそ、求めてたもんやんか!」
「うん。」
「じゃあ、さっそく今から連絡してみたら?
善は急げやで!」
しかし、ゆんは、何故か黙って首を横に振る。
「え?なんで?
メンバーの歳も近そうやし、音楽の趣味も合いそうやし、ちょうどええやん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。
たかゆき氏(当時の僕のあだ名)が電話して。」
「…は!?」
なんでも、
こんな経験は初めてなので、自分で電話するのはどうしても緊張するらしく、代わりに僕に電話してほしいというのだ。
なるほど、それでわざわざ僕の家を訪ねてきたのか。
まあ、彼女を応援すると決めていたから、別にそれぐらいの事は構わないんだけど、
それで困惑するのはあちら側の方じゃないだろうか…。(笑)
さっそく僕が、そのメンバーの一人に電話をかける。
「あ、もしもし。
えっと、楽器屋のバンドボーカル募集の紙を見てお電話させてもらったんですけど、まだ募集ってされてますか?」
↑
完全におっさん声。
「…はい?
あの…、えっと…、
まだ募集してるにはしてるんですが、申し訳ないですけど、その募集は男性ではなくて女性ボーカルの募集なんですよ…。」
↑
完全にヤバイ人が電話をかけてきたと思ってる。
「はい、分かってます!(キッパリ)
ボーカルをしたいのは、僕じゃなくて、友達なんです!」
とまあ、なんとも噛み合わない会話がしばらく続いて、ようやく用件は伝わったんだけど、
最後には、じゃあ一度スタジオに入ってセッション形式でボーカルを聞かせてほしい、ということになった。
「よし、ゆん。
当日は頑張ってな!」
「・・・・・・・・・・・・・・。
たかゆき氏もついてきて。」
…わしゃ、保護者か!(笑)
けど、仕方がない。
今まで外に向けた音楽活動などしたことのない彼女にとっては、いくら才能があるといっても、こういうことすべてが初めての経験であり、
それはまるで、ずっと自宅の小さなプールで泳いでいた子供が、初めて大きな海に出たようなものなのだ。
それも理解してあげないと。
とにかくまあ、そんなわけで、
いかにも怪しい部外者(僕)が見守る奇妙な状況の中、なんとか無事にスタジオセッションも終わり、めでたくゆんのバンド加入が決まったんだけど、
そこからの彼女はやっぱり凄かった。
目の前の大海原を、ひるむことなく自由に泳ぎ始めたのである。
ゆんの命名で、「オレンジ☆プランクトン」と名付けられたそのバンドは、ドラムも迎え入れ1999年5月に大阪で活動を開始。
半年ほどして行われた初ライブでは、小規模ながらもベテランバンドを含むコンテスト形式で行われ、いきなり優勝。
ほどなく、メンバーにもゆんの才能は十分に認められ、大半の曲をゆんが作詞作曲するようになる。
順調にライブ活動を続け、2001年8月には念願のCDデビュー。
同年、有線大賞インディーズ部門の最優秀新人賞に選ばれる。
翌年には東京進出。
その後、多少のメンバーの入れ替わりはあったものの、2005年までにアルバム4枚、シングル3枚をリリース。
その間、テレビ・ラジオ出演、CMソングなど、メディアにも多数取り上げられるものの、2005年いっぱいで、惜しまれつつ「オレンジ☆プランクトン」は解散。
しかし、2006年からは、ゆんは自身のソロプロジェクト「夕焼けランプ」として活動再開。
「夕焼けランプ」としてもますます活躍の場を広げ、映画やドラマ主題歌、CMソングなどに多数の楽曲を提供。
現在も精力的に活動中で、CDはアルバム1枚、シングル1枚をリリースしている。
「夕焼けランプ」ホームページ →こちら
はっきり言って、お世辞抜きにこの「夕焼けバラッド」は名盤だ。
ちなみに、最近の僕のお気に入りを、1曲だけ期間限定の特別デモテープ仕様でみなさんにお聞かせします。
いや、お聞かせしますとか偉そうなことは言いません。
どうかみなさま、最後までお聞きください。(土下座&上目づかい)
「夕焼けバラッド」収録の「手紙の唄」という曲です。
(ヘッドホン推奨)
(うまく表示されない方は、なるべく最新のFlash Playerをインストールしてください。)
(携帯からは見られませんし、聞けません。)
(ちなみに僕、今回このカセット型プレーヤーを作るのに、計10時間以上かかってます。あはは…。)
もちろん、「夕焼けランプ」は、こういった系統の曲ばかりではないんですけど、この曲はどうしても今の僕の気分にピッタリだったんです。
もし、今回少しでもゆんに興味が沸いたという方がいらしゃったら、是非アルバム「夕焼けバラッド」をお買い求めください。
きっと、あなたの大事な一枚になってくれるはずです。
お値段も、たったの2,100円。
なんと、我が国の国家予算の450億分の1のお手頃価格です。
これなら、お財布にも日本にも優しいですね。
はい!
セールスマンタイム終了!
とにかく、
今年の2月にそのゆんが映画監督さんとめでたく結婚することになり、僕は東京での結婚式に招待されたのである。
つづく…。
(相変わらず、なんて長い前ふり…。笑)
→「後編」

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