まず、前回の補足として言っておきたいことがあります。
改めて前回の記事を読み返してみると、なんだかそれだけ読んだ人に誤解を生ませてしまいそうな気がしたからです。
いつも僕は、自分の歌にはそれほど自信を持っていないだとか、たいしたことはないだとか言っていますが、それでもやはり、この仕事の中心は誰がなんといおうと歌です。
周りからみればやはり、僕は普通のストリートミュージシャン。
歌に満足していただけないと、お金うんぬんなんて話になるわけがない。
前回の話はあくまでも、歌に満足してもらって、その後、さあいくらお金を払っていただけるかという、「歌+α」のお話ですよ。
そこの説明がどうも足りなかった気がします。
僕はいつも、お客さんに対しては、好調不調の波は激しいですが、その時自分ができる範囲で精一杯歌を歌います。
もうちょっと正確にいうと、あちらが求めているものに少しでも近づくように、最大限努力して歌を演じています。
そういう意味では、今まで一度だって手を抜いたことはありません。
こんな僕の歌、もちろんお気に召さない方もたくさんおられるとは思いますが、そのかわり、逆に、すごく気に入ってくださる方も有難い事にものすごいたくさんいらっしゃるんです。
もちろん、歌に満足していただけなかった場合は、その方からお金をいただこうなんて1ミリたりとも思いません。
僕はこれが精一杯なんですいません、と言って帰っていただくしかしかたありません。
そして、その方は、二度と僕の前に立ち止まってくれることはないでしょう。
じゃあ、歌に満足していただいた場合はどうなんだろう、という話なんです。
歌に関しては最大限努力した、じゃあその他にももっと努力工夫をできるところがまだまだたくさんあるんではないだろうか、ということなんです。
仕事として。
お金を儲ける身として。
そのプラスアルファの努力の一例が、前回の話だったわけです。
そして、そのプラスアルファがまだまだあるんだよ、と。
少し理解していただけましたか?
ちょっと気になったんで、補足させてもらいました。
さあ、話はガラっと変わります。
今までの真面目な話はなんだったんだろうというほど、さっきの話とはまったく関係ありません。(笑)
あのー、2,3日前、ネットでニュースを見てたら、どうやら俳優の奥田瑛二さんが監督された映画「長い散歩」が、カナダのモントリオール世界映画祭で、見事最高賞のグランプリを受賞した、というニュースが載っていました。

これは素晴らしい事です。
日本の映画が、世界の大きな映画祭でグランプリを獲る、日本映画にとってこんな名誉なことはありません。
しかし、奥田瑛二さんは俳優だけじゃなくて、最近は監督業にもすごい力を入れられてるんですね。
それが、さっそく結果になって、素晴らしいですよね。
やっぱりすごいなー、奥田瑛二。
奥田瑛二、すごいなー。
奥田すごいなー瑛二。
すご奥田いなー瑛二。
最近元気してるんかなー、奥田くん。
最近会ってないなー、奥田くん。
またあの頃のように、一緒に音楽したいよね。奥田くん。
えっ?そうですよ。僕と奥田瑛二くんは昔、音楽仲間だったんですよ。
言ってませんでしたっけ?
一緒にセッションしたりしてね。
熱かったよね、あの頃の俺たち。
ん?何が言いたいんかよく分からんけど、とにかくなんかうっとおしいって?
うん、僕もちょうど、そう思ってたとこです…。(笑)
なんか寝起きの変なテンションなんです。気にしないでください。(苦笑)
とにかく、何が言いたかったのかというと、以前何年も前に、奥田瑛二さんが僕の仕事場にやってこられたということなんです。
映画のニュースで、それを思い出したんです。
その時の話をします。
何年も前のある日、奥田瑛二さんが5,6人で、「奥田瑛二御一行」という感じで僕の前を通りすぎていった。
僕は、「一曲どうですか。」と声をかける。
すると、奥田さんは他の方をほったらかすようにして、僕の真横にどしんと座られた。
少し、お酒の香りがする。
実は、僕は、奥田さんが大昔に出演されていたドラマ「男女7人夏物語」の大大ファンで(若い世代の人は知らんかなあ。)、ビデオも全巻持っている。
その事を興奮した僕が伝えると、奥田さんは
「そう。」
と、ただ一言だけ、さもそんなことには興味なさそうにポツリと答えた。
「ちょっと、マイク貸してよ。」
続けざまに、そんなビックリするお願いをしてきた奥田さんは、僕の答えを聞く間もなく、マイクスタンドを自分の方に向けられた。
そして、ズボンのポケットからブルースハープ(ハーモニカ)をひとつ取り出した。
え?自前?いつも持ち歩いてんの?
「何か、Eの曲弾いてよ。」
そう言われて、もう、何がなんだか分からないが、とにかくその存在というかオーラに圧倒されて、僕もよく分からないまま、とりあえず、Eのブルースを即興で弾き始めた。
ここから、僕と瑛二の、立場のまったく違う二人の、不思議な初対面セッションが始まった…。
僕が激しくギターをかき鳴らせば、瑛二のハープがそれに応え、瑛二がスイングすれば、僕もそれに応える。
僕がニューオリンズの風を感じれば、瑛二もメンフィスの風を送りかえす。(?)
と、まあ、そんな素敵なセッションが繰り広げられた、
なんてことは全くなく、
奥田さんは自分の思うがまま自分のペースでハープを吹き続け、僕が必死にそれにギターを合わすといった心の通い合わない演奏が続いた…。(苦笑)
そうするうちに、どんどん人が集まりはじめた。
そりゃそうだ。
あの奥田瑛二が、道端でハーモニカを吹いているんだから。
さぞ、すごい光景だっただろう。(笑)
人ごみは、人だかりに変わる。
その時、それを見計らったかのように、奥田さんのお連れの人間が、カバンからなにやらポスターを取り出して、ハープを吹き続ける奥田さんの横でそれを人だかりに見えるように広げだした。
確か、その当時公開されていた、奥田さんの主演映画の宣伝ポスターだったと思う。
な、なんて、営業熱心なんだ…。
こんなことまでも宣伝に変えてしまうとは。
しかし、俺の立場は…?
私は、だあ~れ?
そんな時、僕はギターを弾きながらも、チラリと奥田さんの様子を眺めてみる。
隊長!だめであります!奥田大佐は完全に違う世界に行っておられます!
自分の横で、自分の映画のポスターを掲げられているにもかかわらず、奥田さんは、我関せずといったおももちで、夢中にハープを吹き続けられている。
目も不思議なところを見つめられている。
もう正直、僕の存在すらも忘れている感じだ。
んー、まあ、それはそれとして、ところで、このセッションいつまで続くんでしょう?
いっても、始まってからもう7,8分はたっている。
僕もちょっと疲れてきた。
長い…。
目で訴えようにも、奥田さんは違う世界におられるし…。
取り囲む人達も、少し飽きてきたのか、だんだん減っていく。
しかし、ようやく10分ぐらいすぎたあたりで、奥田さんのハープが突然テンポをゆるめだす。
どうやらエンディングのようだ。
ふうー、やっと終わった…。
僕のギターもテンポをゆるめ、最後、Eのコードで締めくくる。
ジャララ~ン。
残っていた人達から、一斉に拍手や歓声が巻き起こる。
パチパチパチ。ヒューヒュー。
奥田さん、ハープをポッケにしまい、おもむろに立ち上がる。
そして、みんなにお礼でもするのかなあと思って見ていると、お客さんには目もくれず、さっそうとそのまま立ち去っていった…。
えっ!?
もちろん、僕にも何の一言もなしに…。
それを見たお連れの方々は、慌てて奥田さんを追いかけていった。
一人マネージャーらしき人だけが、走って戻ってきて、
「すみませんでした。」
と言って、ギターケースにお金を入れていった。
取り囲んでいた人達も、なんだ拍子抜けといった感じで、ぞろぞろ帰っていく。
取り残された僕一人…。
ぽっつーん…。
ほんとにそんな音が聞こえてきそうな、見事な取り残された感だった。(笑)
いやあ、やっぱり、奥田瑛二はただ者ではない。
だって、いっつもポケットにハープしのばせて、たまたまそこにいたストリートミュージシャンとセッション始めて、やるだけやりつくして、そのまま帰っていくねんで。
そんな一般人いない!
そんな人が、凡人なわけがない。(笑)
恐るべし!奥田瑛二!!
ほんと、モントリオール世界映画祭グランプリおめでとうございました。
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