初恋、のようなもの 前編
少し前にひいた風邪をぶり返しました。
体調自体はそんなに悪くないんですが、薬のせいか頭が少しポーっとしています。
こんな日に前回からのブログの続きを書こうと思っていると、なんだかここに書く予定もなかった昔のある出来事を思い出してしまいました。
それは、ちょうど今書いている「始まりの物語」当時の出来事です。
そしてそれは、おもしろい話でも、楽しい話でもありません。
ただ、
せっかくなんで今日はその話を書くことにします。
正直、書いたことを後で後悔するような話かもしれませんが、今このタイミングで思い出したんだから、忘れないうちに文章に残しておこうと思う僕もいるんです。
多分今僕はセンチメンタルなんです。
きっと全部、風邪薬のせいです。
18歳、夏。
この頃になると、「チャゲキョウ」(チャゲ&京橋の略)もとっくに解散し、長渕オタクからも卒業して、ようやくごく一般的な音楽青年になっていた僕。
ただそれでも、ギターやストリートだけはまだ続けていた。
まあ、ストリートとはいっても、以前のようになるべく大勢の人に聴いてもらおうなんて趣旨のものではなく、家で一人でギターを弾いているよりは夜中に駅前にでも行って、そこにたむろする若者達とギターで一緒に歌おうかといったぐらいの軽い感じで…。
ギターの方だって、以前のような長渕剛という絶対的な練習の対象を失ってしまった今、僕はほとんど熱心な練習などしなくなり、初めの3年ほどからピタリと上達は止まっていた。
(さらにハッキリ言うと、あれから10数年経った現在でも、それ以来ほとんどまともな練習などしてこなかったに等しいので、腕前は今言った初めの3年からほぼ変わっていないという悲しい現実も…。)
当時、超不真面目浪人生だった僕は、その日も暇を持て余して、夜遅くに一人ギターを抱えて京橋駅に向かった。
今日も終電の終わった京橋駅前広場には、朝まで行き場を失くした若者や酔っ払いのおじさん達が地べたに座り込んでいる。
僕は、いつものように適当なスペースを見つけて、彼らと同じようにベタンと座り込んだ。
そして、ギターケースからギターを取り出し、みんなが知っていそうな流行りの歌を口ずさむ。
時折吹き込む、夏の夜風が妙に心地いい。
しばらくすると、案の定、彼らは僕の周りに集まってきた。
気持ち良さそうに体を揺らしている人もいれば、一緒に歌を口ずさむ人もいる。
そして、数曲後、歌に飽きれば、僕らはささやかな自己紹介をしあったり、たわいもない会話を交わしたりする。
そして、また歌う。
とにかく、こういう感じの流れが当時の僕のいつものストリートスタイルだった。
午前5時。
始発電車が動き出す頃になると、いつも、一人また一人と僕を取り囲む輪は小さくなっていく。
空もすっかり明るくなり、京橋駅前広場も人が行き交い始め、街が少しずつ動き出す。
しかし、今日は、この時点になっても、珍しくまだ3人の人間が僕と一緒に地べたに座っていた。
ひとりは、今日本全国を貧乏旅行しているという22,3歳くらいの青年。
ひとりは、僕と同じ年だというショートカットの女の子。
ひとりは、ホームレス風のおじさん。(いや、おそらくホームレス。)
僕を含めたこの不思議な関係の4人は、行き交う人達の不審そうな目を気にするでもなく、いまだに宴の続きを楽しんでいる。
午前6時。
この時間帯になってくると、段々街の動きも激しくなってくる。
さすがに、そんな中このまま4人もの人間が地面にタムロしている状態もどうかと思ったので、僕から切り出した。
「じゃあ、今日はそろそろお開きにしましょうか…。」
本来なら、僕のこの言葉で、この1日は「とある夏の日の日常」として時間と共に記憶の隅で忘れ去られていたような1日になったに違いない。
けど、現実はそうはならなかった。
僕はあれから10年以上経った今、実際にこの日の事を記憶し、それをここに書きとめている。
まさに、それが答えだ。
ただ、
彼女は今もこの日の事を覚えているんだろうか…。
話を続けよう。
さて、ここをお開きにした後、僕はただ家に帰って寝るだけだが、他の3人はどうするのだろう。
聞けば、旅中の青年は、このまま今日は京都の方に向かうらしい。
ホームレスのおじさんは…、
聞いた僕が間違えていた。
彼に帰る家があるはずもない…。
この時、ショートカットの女の子が意外な事を口にした。
「ウチもおじさんと一緒や。
帰る場所なんてないねん。」
「え?」
残りの男3人が一斉に驚きの声を上げる。
僕は反射的に改めて彼女を観察しなおすが、特にみすぼらしい格好をしているわけでもなく、やはりごく普通の18歳の女の子といった印象である。
少しの間の後、おじさんが聞いた。
「どういうことや、帰るとこがないって。」
「ウチな、昨日実家から家出してきてん。
知り合いもおらんし。
だから、今はどこもいくところがないねん。」
この時の彼女の表情は、哀しい顔だったんだろうか、それとも平然とした顔だったんだろうか。
まだ全然大人になりきれていないこの時の僕には、それを読み取ることはできなかった。
おじさんは続ける。
「じゃあ、お嬢ちゃんは、今日はこれからどうするねんな。」
「うーん、分からない。
まだ、何にも決めてないもん。」
「ほんなら、ちょうどええわ。
このギターの兄ちゃんの家で今日は寝かせてもらったらええねん。
なあ、兄ちゃん。」
!?
予想外の展開と、あまりにも突然のフリに、僕は目を丸くする。
な、何を言ってるんや、このおじさんは…。
自慢じゃないが、ずっと中高一貫の男子校に通っていた僕は、18歳になったこの時ですら、未だ女の子という生き物とは2人きりで喋ったこともないような、超ウブな男子である。
そんな僕が、今日会ったばかりの見知らぬ女の子を家に泊めてあげるなんてことが到底できるわけもない。
第一、この時僕はまだ実家暮らしである。
「い、いや、僕は実家ですし、それはちょっと無理ですよ…。」
僕は精一杯の苦笑いを浮かべるが、ただ場の空気が重くなるだけだった。
「なんや、ケチくさい兄ちゃんやのー。
そんなら、この子どーすんねんな。」
理不尽な怒りの目を僕に向けるおじさん。
それをさえぎるように彼女が言う。
「いや、大丈夫。
ウチ、どこかその辺で寝るから。」
「その辺って、どこや?」
「いや、その辺…。」
「アホか!こんな若い姉ちゃんが道ばたで寝といてみい!
ワシらみたいな変なおっさんに何されるかわからんど!」
おじさんの一喝に、彼女はシュンとしてしまう。
場の空気はますます重くなる。
しばしの沈黙。
「なあ、兄ちゃん。
兄ちゃんが、そんなケチくさい事言うからこういう事になるねん。
実家かなんか知らんけど、ただ1日泊めたるだけやんけ。
何でそれだけのことがしてやられへんねん。
後の事は、それから考えたらええやんけ。
なあ、泊めたれよ…。」
気付くと、旅人を含めた全員が、僕の方を見つめている。
はは…。
この場のイニシアティブは、いつの間にか完全にこのおじさんが握っていて、どうやら僕が今悪者になってしまっているらしい。
まあ、
そりゃもちろん僕だって、こんなに若い女の子が路頭に迷っている姿はかわいそうだと思うし、道ばたで寝るだなんてもってのほかだということくらいは分かる。
ただ、あまりにも話が突然すぎる。
だって、僕と彼女は、ほんの数時間前に出会ったばっかりの初対面の2人である。
それが何故こんな話になってしまうのだ。
それでも、まだ3人はこちらを見つめている。
・・・・・・・・・・。
まあ、
そりゃあ、いってもうちは結構プライベートだけはしっかりしてるから、僕の部屋のドアを誰かが突然開けるなんてことはほぼ無いし、母親にバレずに泊まることは案外可能なのかもしれない。
ただ、それでも…。
もちろん、まだ3人はこちらを見つめている。
・・・・・・・・・・。
「け、けど、あなたはうちなんかでいいんですか?」
「うん。そっちがいいんだったら、それはすごく助かる…。」
3人の目は一段と鋭くなる。
・・・・・・・・・・。
はぁ…。
「…じゃあ、ほんとにうちでいいんなら。」
つづく…。
P.S.
ほんとは、頭がボーっとしながらも、頑張って丸一日かけてこの話を最後まで全部書き上げたんですが、結果いつも通りやたらめったら長くなってしまったんで、今回は事務的に3日に分けて更新させてもらいます。
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