パジャマストーリー 1
4年前にここで、「仁義なき戦い」(全4話)という日本一周中の思い出話を書きましたが、
実はああいった怖い方々とのトラブルっていうのは、この十数年、他にも何度かありました。
そりゃやっぱり、飲み屋街での仕事ですもんね。
ただ、あの「仁義なき戦い」の話は、僕の人生の中でも大きな武勇伝というかなんというか、とにかく一応は結果的にハッピーエンドになった話だからこそここで書かせてもらったんですが、
実際はというと、もちろん他のトラブル全てがあんな風にハッピーエンドで終わるというわけではありません。
中にはグダグダなまま終わってしまう話もいくつかあるわけです。
そこで今日は、そんな中でも、
結末は少し中途半端なんだけど、それでも忘れることは出来ないという思い出話をさせてもらいたいと思います。
久しぶりにかなり長くなってしまうかもしれませんが、なんとか最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。
ただ、最後まで読み終わった時に、「中途半端や!」とは怒らないでくださいね。(笑)
それは、3年ほど前の話。
ある晩、40歳近くの一人の男が仕事中の僕の横に腰かけた。
わあ、また来たで…。
実はこの人、その何年か前から知ってるチンピラさんだ。
いや、チンピラというかなんというか、とにかく僕が歌っている飲み屋街を取り仕切る大きな暴力団の一員だ。
で、なんで僕が彼の事を知っているのかというと、
何年か前のある日、彼が僕の前をたまたま通りかかった時に、彼の方から話しかけてきたのだ。
なんだかよく分からないけど、初対面なのに突然、
「今日はもう親父はここを通ったか?」
などと訳の分からないことを聞いてきた彼は、その時、
ノーネクタイで少しダラっとしたスーツを着ていて、スキンヘッド。
もちろん見た目はサラリーマンとかではなさそうなんだけど、かといってスキンヘッドのわりに少しとぼけた顔をしているので威圧感などは無く、今の訳の分からない質問も相まって、
僕は、色んな意味での「危ない人」がやって来たと、ただ単純に思った。
でもよく話を聞くと、なんと彼はヤ○ザさんらしく、
なんでも、僕に「組長はここを通ったのか」ということを聞きたかったらしい。
ヤ○ザ?この人が?
その雰囲気から正直初めはそう思ったけど、本人が言うんだからしかたがない。
ただそれにしても、いくら僕が何年もここで歌ってるからといって、そんな暴力団組長さんの顔なんて全く知らないし、ここを通ったかどうかなんて事ももちろん分からない。
正直に僕がそう伝えると、
「そうか。」
と言って彼は僕の横に腰かけた。
…え?何?
もしかして、ここでその組長を待つつもり?
うそー、嫌やで、そんなん。
俺、超仕事やりにくいやん!
というか、
この人、近くで見ると、益々すっとぼけた顔をしている。(笑)
同じヤ○ザでも、あの時の岩手県のヤ○ザとはえらい違いだ。
しかし、いくらすっとぼけた顔をしてるとはいっても、やはりヤ○ザが横に座ってるというのは決していい気分なものではない。
しかも、もしかしたらこの後、この弾き語りに「いちゃもん」がつけられる可能性もあるわけで、
僕も変に緊張して身構えざるを得なかった。
でも実際はというと、この後とくに怖い事が起きるわけでもなく、
彼は何故だか組の内部事情のような話を、こちらから質問したわけでもないのに自慢げに延々と話し続けるだけで、
僕は仕事を中断したまま、ただ黙ってそれを聞いてるしかなかった。
あの派閥とこの派閥がどうだとか、この前こんなトラブルがあったとか、親父がどうだとかこうだとか。
知らんがな…。
猛烈に興味がない…。
しかも、彼はひとしきり一人で喋り終えると、おもむろに立ち上がり、そのままどこかへ立ち去って行ってしまった。
え?組長は?
結局待ってたわけじゃないの?
じゃあ、一体何やったんや今の時間は…。(苦笑)
とにかく、それが僕と彼との初対面だった。
それからというもの、彼は数ヶ月おきぐらいにふらりと僕の元に現れるようになった。
僕は気に入られてしまったんだろうか。
ただ、彼の格好がスーツ姿だったのは結局初めの1回目だけで、
それからは、彼はヤ○ザだというのに何故かいつも普段着で現れ、しかもその普段着というのが大抵だらしなく、時にはどう見ても部屋着にしか見えないことさえあったから(実際には部屋着では無いと思うが)、
それ以来僕は、勝手に心の中で彼の事を「パジャマ」と呼ぶようになった。(笑)
パジャマはいつも一人でやって来た。
そして、僕の横に座ると、相変わらず組の中の話を自慢げに話したり、他愛も無い世間話などをしてそのまま立ち去っていくのだった。
さらに、パジャマは、例えヤ○ザといえども、その見た目も含め、やっぱりどこか抜けているところが多かったので、
僕はだんだん彼に対する免疫が付いてきて、いつしか、彼が来ても歌う事を止めないほどになっていった。
つまりは、歌の合間合間に彼の話を聞いてあげるだけというか。
そして、お客さんが来ても、もう当たり前のようにパジャマの目の前でお金を入れてもらっていた。
なんというか、
もちろん彼が横に居ると相変わらず少しは緊張するし、邪魔である事に変わりはないんだけど、
かといってパジャマは今のところ僕の商売に文句を付けてくるようなことも無いので、
もう彼の存在がどうでもよくなっていたのである。
そう、
この頃の僕にとって、パジャマはどうでもいい人だったのだ。
とにかく、2人のそんな関係は1年ぐらい続いた。
でも、1年を過ぎたあたりから、なんだか状況が少しずつ変わっていった。
それは、ある時何かの話の流れで、パジャマが実は組長の息子であるっていうことが判明してからである…。
(まあそれも、彼が自分で言いだしたことなんだけど)
つづく…。
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