ウエディング・ソング 前編
前回で書き切れなかった話を少し。
2月末、僕は東京に行った。
大学時代のある友人の結婚式に出席するためだ。
14年前。
以前にも何度か話したが、中学・高校とずっと男子校の中で過ごしてきた僕は、女性という生き物とはほとんどふれ合ったことのない超ウブな若者だった。(唯一の例外→「初恋、のようなもの」)
そんな僕が、一浪して大学に入学した時、まず初めに心配したのが、やはりその「女性」の存在。
ちゃんと目を見てしゃべれるやろか…。
気持ち悪がられへんやろか…。
勉強のことなんかよりも、ほんとにそんなことばかり心配していた19歳だった。
しかし、幸いなことに、僕が最初に所属したゼミは、想像以上に和気あいあいといった雰囲気で、女性陣も皆フランクな子たちばっかりだった。
まあ、ここで「フランク」なんてカッコつけたことを言っても、実際はもちろん僕が彼女たちと話をしたりすることが出来るはずもなく、それは客観的に他の子たちとしゃべっているのを見てとかいうレベルの話だったんだけども…。(苦笑)
それでも、その「和気あいあい」のおかげで、男友達はすぐにたくさんできた。
まあ、よしとしよう。
少なくとも、これで大学生活を一人で孤独に過ごさなければいけないという最悪の事態だけは避けられたんだから。
そんなある日。
僕は男友達の一人と一緒に、学生食堂である論文を書いていた。
その論文はキリスト教に関する論文だったんだけど、僕の大学はキリスト系の学校で、この論文を提出しないと必須単位がもらえないという重要な論文だった。
ただ、この頃の僕は、母親の強い要望で大学に入学したはいいものの、勉強や卒業には本当に興味がないダメ学生だったので、こういう必須の論文でさえもただただ疎ましく思っていた。
そこで僕は、何を血迷ったのか、その男友達を笑わすためだけに、その論文用紙に僕の中の「ドラえもん論」を大真面目に書きつづりはじめた。
本気でそれを提出してやろうと思ったのである。
キリスト教の論文なのに、ドラえもん論。
今考えると、シュールを通り越して一体何が面白いのかサッパリ分からないけど、それでも出来あがったものを読んだ友達は大いに笑ってくれた。
僕は満足だった。
大学をなめるなと言われてしまいそうだけど、この時僕は少しでも自分という人間を友達に知って欲しかったのかもしれない。
とにかく、気を良くした僕は、しばらくその友達と2人でケタケタ笑い合っていたんだけど、
その時、偶然にもその食堂に居合わせた同じゼミの女の子2人組が、僕達の笑い声につられてこちらにやって来てしまう。
僕の中に、一瞬にして緊張が走った。
もちろん、ただ女の子がやって来たということもあるが、それ以上に、その内の一人が僕にとってゼミの中で特に気になっていた美人の女の子だったからである。
「2人で何笑ってんの?」
まず、その美人な子が話しかけてきた。
「え?いや、あの…。」
「ちゃうねん。あんな、たかゆきがキリ教の論文にドラえもんの話書きよってん!」
代わりに友達が答える横で、僕はただ顔を真っ赤にしてうつむくしかなかった。
「へえー、すごい!たかゆきくん、これほんまに提出するの?」
「…あ、う、うん、まあね。」
僕はもう耳の先まで真っ赤にして、目も合わせずに答える。
「わー、たかゆき君っておもしろいなあー。」
「そ、そんなことないよ…。」
とにかくまあ、そんな不毛な会話がしばらく続いた後、僕達男2人は席を立ったんだけど、
食堂を出てしばらくしたところで、さっきのもう片方の女の子がなぜか背後から走って追いかけてきた。
彼女は、さっきは一言もしゃべってなかったけど、いつもはまるで子供みたいな幼い声で話す、とても背の小さな女の子。
顔もすごく童顔で、特に今日なんかはオーバーオールを着ているもんだから、はたから見たら中学生ぐらいに見えてもおかしくない風貌である。
その彼女が追いかけてくる。
何だろう。
何か言い忘れたことでもあったのかなあ。
そして、彼女は追いつくなり、僕の目を見つめて一言。
「ドラえもんが好きですか?
わたしの家にはドラミちゃんがいます。」
ん!?
…は?
あまりにも予想外の言葉に、僕は一瞬言葉を失ってしまった。
しかも彼女は、それだけ言うと、僕の返事を聞くまでもなくクルリと方向転換し、あっという間にもといた場所に走り去っていってしまったのである。
!?
…え、えー??
僕の頭の中は、もう「?」で埋め尽くされた。
なんだったんだ、今のは…?
ドラミちゃんが家にいます?
しかも、言い逃げ?
…さっぱり、わけが分からない。
ただ、
わけが分からないと同時に、彼女が僕の中に強烈なイメージを残したことだけは確かで、
結局その後一日は、彼女の存在が頭からこびりついて離れなくなってしまった…。
しかも、時間が経つと、そのイメージにはなんだか奇妙な清々(すがすが)しささえも伴い始めて、
「ああ、世の中っていうのは、まだまだ俺の知らない人達や価値観であふれてるんやなあ。
それなのに、俺は今までなんて狭い世界に住んでたんやろう。
こりゃあ、一つの価値観に凝り固まったり、いちいち女の子に恐縮してる場合じゃないなあ。
もったいない。
そうや、俺達はもっと自由なんや!
…わー、大学生活って、予想以上に楽しいものなのかも。」
などと、
そこまで大げさなものに膨らんでいった。
読んでる方にうまく伝わっているかどうかが不安だが、
とにかく、彼女のあの行動は、いくら目的や意味が分からなくても、僕にとっては本当に衝撃的な出来事で、
今思い返してみると、あれこそが僕の大学生活の始まりを告げてくれた大きな鐘の音だったのである。
そしてこれが、
先月めでたく結婚した「ゆん」と、僕とのファーストコンタクトだった…。
つづく…。
すみません!
冒頭で、「書き切れなかった話を少し」なんてイキがったことを言ってましたが、結局いつも通り長くなっちゃいそうなんで(笑)、次回に続きます!
→「中編」
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