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2009年11月 4日 (水)

幸福な朝食 退屈な夕食

長かった「始まりの物語」も、ようやく今回で完結です。

もちろん、今回もいつも通りものすごく長いですが(笑)、せっかくなので最後までお付き合いくだされば嬉しいです。

 

「覚醒」からの続き…

 

 

ダメ、その6

 

それから年は明け、冬の終わりのある夜。

今や妄想で頭が一杯の僕は、

ついに覚悟を決めて母親に宣言した。

 

「お母さん、ちょっと聞いて。

俺な、高校生の時から今までずっと外で弾き語り続けてきたけど、

これからはほんまに歌手を目指そうと思うねん。」

 

「は?

あんた、何言うてんの。

何でもいいけど、大学だけはちゃんと出なさいよ。」

 

「いや、だから大学も辞めようと思ってんねん。」

 

「え!?

アカン!あんた何考えてんの!

後のことはその時考えたらいいから、とにかく大学だけは絶対に卒業しなさい!」

 

「だから、

もう何べんも言ってきたけど、俺は普通に就職するつもりなんか全くないねんってば。

いつも、卒業、卒業って、

今やって何の勉強もしてない俺が、就職もする気がないのにこのまま大学通い続けて何の意味があんねんな。

そんなん、ただのたっかいお金のムダ遣いやん!

しかも、

今はやっと歌手になるっていう目標ができてんから、ますます大学におる意味なんてないねん。」

 

「・・・・・・・。」

 

「それでな、これ以上ここのお世話になってるのもイヤやからな、

俺、この家出て一人暮らしも始めようと思ってんねん。

そしたら、もう完全にお母さんにお金の負担かけんで済むやろ。」

 

「…一人暮らしって、

あんた、どうやって暮らしていくつもりやの。」

 

「それは大丈夫やねん。

前に、今やってる弾き語りは儲かるって言ったやろ。

多分それで十分に暮らしていけるはずやから、

しばらくはその弾き語りだけで生活していこうと思ってる。」

 

「あんた、ほんまに何アホなことばっかり言ってんの…。

ええ加減にしなさいや…。」

 

「いや、俺は本気や。」

 

「…アカン、絶対にアカンよ。

もう家出るのは勝手やけど、大学だけは絶対辞めたら許さんよ!

 

「いや、どうしても許さんのやったら、勘当でもなんでもしてくれたっていい。

俺はもう決めてん。

何があっても大学は辞めて、すぐに家も出る!」

 

 

ある程度の覚悟は決まっていたとはいえ、

自分の口から「勘当」なんて言葉が出たことに驚いた。

 

僕は、小さな頃から自分の意思とは関係なく、母親に受験戦争のレールに乗せられてきた。

そして、確固たる目標のなかった僕は、

色んな反抗をくり返しながらも、結局は今までそれに従ってきた。

けど、

いつかは自分の力で、自分の思うとおりに生きてみたいという想いはずっと強くあり、

ようやく目標を見つけた今、ここでその長年の想いが一気にあふれ出してきたのかもしれない。

 

もう、僕の頭は他のことは何も考えられなくなっていた…。

 

 

まさに、親の心子知らず…。

 

 

 

ダメ、その7。

 

次の日、

ほんとに大学に退学届を出した僕は、その足でそのまま不動産屋に向かった。

 

僕はとにかく急ぎたかったのだ。

もちろん、昨日母親にタンカを切った手前、一日でも早く家を出てしまいたいと思っていたのもあるけど、

もしかすると、心のどこかで、今の自分の気持ちが少しでも揺らいでしまうのを恐れていたのかもしれない。

 

 

ただ問題は、この時の僕にとって不動産屋というものが全くの未知の領域だったこと。

 

部屋の借り方などほとんど知らない僕は、

まず梅田の適当な不動産屋に飛び込み、いきなり

「とにかく急いでいるので、明日にでも入れる部屋を探してください。」

と頼み込んだ。

しかも、職業を聞かれて、

おバカな僕は

「ストリートミュージシャンです!」

なんて自信満々に答えるものだから、

当然あちらは困り顔。(笑)

 

結局、事情をすべて話した結果、

収入証明もない・保証人もいない僕に紹介できるのは、限られたワケあり物件しかないということで、

僕は「十三」という怪しさ満点の町の、築40年以上のオンボロマンションを借りることになった。

しかも、壁が薄くてユニットバス、間取りもそんなに広くないのに、家賃はなんと9万円近く。

今考えると、十三の相場でそんな値段はありえないが、

ワケありだったから仕方なかったのかもしれないし、もしかするといいカモにされたのカモしれない。

けど、当時の僕は相場なんてものすら知らず、とにかく気持ちが焦っていたので、もう選択する余裕なんてなかった。

 

 

ああ、ダメな部屋選び…。

 

 

 

ダメ、その8。

 

さて、そんなわけで、

翌日さっそく友達に引越しを手伝ってもらい、結局は家出のような形で始まった一人暮らし。

 

ただ、ここまで意地と妄想だけで突っ走ってきた僕も、

ダンボールが積み重なったままのこの殺風景な部屋で、改めて一人っきりになると、

今さらながらさすがに自分が決断したことに対する現実感が沸いてくる。

だって、これからは今までのような妄想世界ではなく、

リアルな現実問題として、この知らない場所で自分一人の力だけで生きていかなくてはならないんだから…。

 

 

 

…まあでも、

それは怖気づいてしまうというほどのレベルの話でもなく、

この時点ではまだ、相変わらず僕の頭の中には楽観的な部分も多く残っていた。

 

 

例えば、「歌手を目指す」っていう部分。

 

実は僕、ずっと歌手デビューを目指すなんてカッコつけたことを言ってるくせに、

じゃあ具体的にどうやって歌手を目指すのかと言われると、

この時なんと、そこについてはまだ明確なプランなどなーんにも無かったのである…。(苦笑)

 

さすがの僕も、人の歌だけを歌ってる今の路上弾き語だけじゃデビューになんかはつながらないことぐらいは認識していたんだけど、

かといってオリジナル曲なんてものも今までほとんど作ったこともなく、

まあ、この生活を始めれば一応は音楽漬けの毎日っていうことになるわけで、これから空いてる時間にでもオリジナル曲をいっぱい作っていけば、アレがこーなってコレがあーなって、まあそのうちなんとかなるでしょう、

と、

たったその程度にしか考えていなかったのである。

 

 

いつも行動だけは大胆なくせに、実は一番肝心な部分がものすごい適当って…、

ああ、ほんとダメな男…。

 

 

 

そしてそれは、「お金」の面についても同じことが言えた。

 

この時の僕は、本格的な一人暮らしっていうのが生まれて初めてだった上に、今の弾き語りを始めてからは金銭感覚がかなりバカになってしまっていたこともあって、

これからかかってくる「生活費」というものについても、ほとんど深くは考えていなかったのである…。

 

 

じゃあとにかく、みなさんにも分かりやすいように、

ここでその1ヶ月にかかるであろう生活費を計算してみたいと思う。

 

 

まず、家賃、約9万円。

(この時点で、ほんとはかなりのバカである…。苦笑)

 

次に、不動産屋さんにどうにか組ませてもらった敷金・礼金のローン、約4万円。

 

そして僕、実はちょっと前にビンテージギターを2本も衝動買いしてしまっている…。

そのローン、約5万円。

 

光熱費やら水道代、約1万円。

 

さらに、今まで親に払ってもらってた、国民健康保険と民間の入院保険。

これも合わせて、約1万円。

 

ここまでで、合計約20万円。

もちろんこれは、まだ食費や交遊費などの雑費を抜いた金額である…。

 

 

ね?

これを見ただけでも、

21歳の僕が、どれだけ世間知らずで、パッパラパーな金銭感覚をしていたかがよく分かると思う…。(苦笑) 

 

そしてなにより、

路上弾き語りなんて何の保障があるわけでもないのに、

こんな感覚のままで、この男は本当に大丈夫なんだろうか…。

 

 

 

ダメ、最終章。

 

…全然、大丈夫なんかじゃなかった。(涙)

 

次の日、初めて仕事として行った弾き語りで、僕は現実の厳しさというものを思い知ることになったのだ。

 

だってまず、今までのお気軽弾き語りとは全く違って、これが仕事だと思うと、お金を儲けなくちゃっていうプレッシャーが半端なものじゃないのである。

正直、こんなに緊張するものだとは思ってもみなかった。

 

体がガチガチの僕は、いつもの愛想すらうまく使えず、

まず肝心のお客さんを立ち止まらせることさえできない…。

しかも、ようやく立ち止まってもらっても、

今度は力みすぎて、絶叫みたいな歌になっちゃうし、歌詞は間違えまくるしで、もうハチャメチャ。(苦笑)

お客さんも、そんな僕に引いちゃって、お金なんか全く入れてくれない。

 

 

結局、開始から1時間、

僕のギターケースには1円のお金も入らなかった…。

こんなことは、この半年間で初めてのことである。

僕はあぶら汗が止まらなくなっていた…。

 

 

ああ、どうしよう…。

全然お金入れへん…。

こんなはずじゃなかったのに…。

もしこのままお金が入らんかったら、俺生きていかれへんやんか…。

しかも、絶対に払わなあかんお金だけで月に20万円以上あるっちゅうのに…。

ああ、どうしよう…。

こわい、こわい…。

 

僕は、この弾き語りで初めて、「恐怖」という感情を覚えた…。

 

 

 

まあそれでもこの後、

この日の弾き語りが終わるまでに、どうにかこうにかいつもの半分くらいのお金だけは儲けることのできた僕は、

心身共にヘトヘトになりながらも、逃げるようにして新しい家に帰った。

 

そして、帰り道の途中、

僕はもうさっそく、この弾き語りを仕事にしてしまったことを猛烈に後悔しはじめるのであった…。

 

 

わー、イヤやー、イヤやー。

まさか、この弾き語りがこんなにもしんどいもんやとは思ってもみんかった。

仕事になったら、今までと全然ちゃうやん。

やっぱ今までは、バイト感覚、お遊び感覚のノンプレッシャーやからこそ、やってこれたんかなあ…。

こんなん、明日から週に何回もせなアカンと思ったら、頭おかしくなってしまいそうや。

 

しかも、全然お金も儲からへんくなってしまったし…。

ああ、どうしよー、

これからもこんなんやったり、もしかしてもっと儲からへんくなってしまったら、俺絶対にやっていかれへんやん…。

かといって、部屋も借りてもうたし、払うもんも多いから、もう後戻りも出来へんし…。

ああ、ほんまにどうしよう…。

 

そもそも俺は、こんな何の保証もアテもない生活を始めようとしたこと自体が間違いやったんやろか。

やっぱり、外山さんと俺とでは全然状況も違うわけやし…。

あーあ、こんなことやったら、あんなに焦らんと、もっとゆっくり考えるべきやったなあ。

あー、イヤやー、イヤやー。

  

 

僕は、今さらながら強烈な不安に押しつぶされそうになりながらも、

とにかく精一杯に自転車をこいで家路を急いだ。

 

 

しかし、家に戻ったら戻ったで、

そこはガランとして古ぼけた、まだまだ見慣れない場所…。

とてもじゃないけど、ここが今の僕の気持ちを落ち着かせてくれるような場所ではないことだけは確かである。

 

薄い壁の向こうからは、隣の家のテレビの音がうっすら漏れ聞こえている。

 

僕はもう何も考えたくなくて、急いで布団を敷き、そこに頭ごとスッポリもぐりこんだ。

 

そして、結局は一睡も出来ぬまま朝を迎え、

僕の記念すべきお仕事初日は、こんな最悪な状態のまま一日の幕を閉じたのである…。

 

 

 

 

 

さあさあ、そんなわけで、

長い長い道のりだったこの「始まりの物語」も、ようやくここまでたどり着かせることができました。

ここから先はもう、ひと通りだけサラっと説明したいと思います。(笑)

 

 

まず、

この後、お仕事弾き語りはどうなっていったのかというと、 

相変わらず、体力的・精神的には半端なくキツかったんですけど、

まあどうにかこうにかお金だけは、以前のように少しずつ儲けられるようになっていきました。

 

けど、たまに雨なんかが2日連続で降ったりすると、

「ああ、このまま雨が降り続けたらどうしよー…。生きていかれへん…。」

と、また本気で頭を抱えちゃうわけです。(笑)

 

しかも、2ヵ月後ぐらいには、僕の歌ってる場所で大々的な工事が始まってしまい、

人の流れが変わってしまうわ、歌うスペースが無くなるわで、もう大変。

けど、生活費を稼ぐためにも、歌わないわけにはいかないので、

この工事の間、僕は工事現場の中で無理やりわずかなスキマを作り、

そこで毎日おびえながら歌っていました。

 

 

こんなふうに、

この仕事を始めて半年ぐらいの間は、毎日毎日後悔と恐怖の連続で、

僕はほんとに、半分ノイローゼみたいな状態になっちゃってました。

しかも、大学も辞めていたし、これが特殊な仕事ということもあり、

悩みやグチを相談する相手がいなくて、すごく孤独だったのも辛かったです。

 

あ、けど、色んなお金だけは、おかげさまで借金することもなく、なんとかギリギリ払うことができましたよ。

ありがとうございます。(誰に?)

 

 

そして、例の、歌手どうのこうのって話…。

あれはねー、みなさんもう忘れちゃってください。(笑)

 

だってね、

まずこの仕事を始めてから1,2年くらいは、

僕、家で全くギターを弾かなくなっちゃったんです。

せめて家におる時ぐらいは、音楽のこと完全に忘れたいわ!

って感じで…。

むしろ、音楽自体が嫌いになっていったぐらいです。

 

やっぱり、何でも仕事にしちゃうとダメですね…。

  ↑
(ただのいいわけ!)

 

しかも、その後だって、まともなオリジナル曲なんて全然出来ないし、

そもそもお前はどこから勘違いしてたんだというぐらい、自分の音楽の才能の無さと考えの浅はかさに、ほとほと情けなくなっちゃいました。

 

みなさん、音楽デビューっていうのはそんなに甘いものではありません。

どうかくれぐれも気をつけて!!

  ↑
(お前に言われたくない。笑)

 

 

 

でも、

ここからの僕は、今までこのブログに書いてきたように、

もう考え方を変え、この弾き語り自体に強いプライドとこだわりを持ち、これは自分にしかできない仕事として、この後のかけがえのない20代を突っ走っていくわけです。

 

とにかく、それが、僕の始まりの物語でした…。

 

 

 

 

最後に、

あの日布団の中でうずくまっておびえていた21歳の僕に、短い手紙を書きたいと思います。

 

 

21歳のキミ。

今、キミが全てにおびえてしまっている気持ちはよく分かる。

そして、残念ながらそれがしばらく続いてしまうことも、僕は知ってる。

ただ、

これから先キミは、まだまだ色んな経験をしていくんだ。

もちろん、今よりもっと苦しいことや、辛いこともたくさん起こる。

けど逆に、他の誰かじゃ決して味わうことのできないような、ほんとに素晴らしい体験もたくさん経験することになるんだよ。

 

 

そしてなにより、

キミはこれから、たくさんのかけがえのない仲間たちと出会う。

今僕の周りにいる友達は、半分以上がこの仕事からつながっていった仲間たちなんだ。

 

ついでに言うと、

何年も先には、ある方法を使って、キミがこれから体験していく様々なことを、全国のたくさんの人達にも知ってもらえることになるんだから。(笑)

 

 

…まあとにかく、

キミの人生の決断が正しかったのかどうかなんて、

今の僕にだって分からないし、

もちろん、他の誰にも分かるわけはない。

けど、

たったひとつだけ、

僕はハッキリと胸を張ってキミに言えることがある。

 

 

 

この仕事を選んでくれて、ほんとにありがとう。

 

 

 

 

「始まりの物語」 完。

 

 

 

P.S.

あー、結局2年もかかっちゃったけど、

とうとう全部書き終えましたー!

疲れたー!

けど、嬉しいー!

もう、内容なんてどうでもいいー!(笑)

 

しかも、くしくも今日は僕の33歳の誕生日です!!

別にこの日に合わせて書き終えようと思ってたわけじゃないんですけど、なんとなく運命的なものを感じます。

 

まあ、つもる話はまた次回お話するとして、

とにかくみなさん、

こんな完全なる自己満足な自叙伝を、最後まで根気良く読んでくださって、ほんとにありがとうございました!

 

おわり!!

 

 

『本日で「始まりの物語」の連載は終了しました。
たかゆき先生の次回作にご期待ください。
たかゆき先生の作品が読めるのは「ノーレイン ノーレインボー」だけ!』
(週刊ジャンプ風)

 

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