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2009年10月 2日 (金)

書を捨てよ、ギターを持って町へ出よう

みなさんは覚えているでしょうか。

このブログで、ちょうど2年ほど前に書き始めた「始まりの物語」

これは、僕がどういったいきさつでこの仕事を始めることになったのかを綴った、完全なる自己満足自叙伝だったんですが、

僕の性格上あまりにも事細かに書きすぎて、とんでもなく長い連載になってしまい、

結局、未だに完結させることができていなかったいわく付きのお話なんです。

 

そこで今日は、そのいわくを解消するためにも、約1年ぶりに「始まりの物語」の続きを書き始めたいと思っています。

ただ、相変わらずの自己満足っぷりな内容ですし、

1年も前からの続きの話ですので、さかのぼって読み始めないと流れがよく分からないという、読む側にとってはかなり拷問に近いシリーズとなっていますので、

あきらめて引き返すなら、今のうちです。(笑)

 

では、見事その拷問に耐え切った猛者だけ、続きをどうぞ。

 

 

「見るまえに跳べ」からの続き…

 

さて、

生まれて初めてギターケースを開けて、いきなり6,800円も儲けてしまった僕。

しかもそれが、たった1時間半の出来事だったのいうのだから、弱冠20歳の若者が有頂天になってしまうのも無理はない。

当初はただの観光&羽伸ばしだったはずの福岡旅行も、初日からさっそく趣旨が変わっていきそうな勢いである。

それを証拠に、次の日僕はお昼ごろ目を覚めると、夕方までの時間をすべてその日の弾き語りのための準備にあてた。

 

その準備というのは具体的に言うと、自作の「リクエスト表」、つまりは「レパートリー表」みたいなものを作るということ。

これは昨晩外山さんが教えてくれたノウハウから自分なりに考えたものなんだけど、

外山さんが言うには、やっぱり僕が昨日感じたように、この弾き語りはおじさん世代に向けてだけ歌を歌うのが最大の秘訣らしく、さらには、その人達のリクエストに応えられるのがベストらしいのだ。

やはり、自分の歌いたい歌や好きな歌を歌い続けても絶対にお金にはならない…

と、そういうことらしい。

けど、この頃の僕が、そういったおじさん向けの曲、つまりはフォークソングのようなものをそんなにたくさん知ってるわけもなく、昨晩のようにごく短い時間ならまだしも、本格的に長時間弾き語りをしようとすれば必然的にフォークソングのレパートリーが足らなさ過ぎる。

かといって、相手が知らない曲を歌って、結局あんまりお金にならないのも嫌だ。

(なぜなら今の僕は「お金」の事で頭が一杯だから!←2回目)

そこで僕は、

じゃあフォークソングは少なくても、とにかく今自分が歌える曲を全部書いたレパートリー表みたいなものを作って、歌を聴いてくれる人にはそこから知っている曲を選んでもらおうと考えたわけである。

相手が選んだ曲なわけだから、それならフォークソングではなくても少しはお客さんも関心をよせてくれるだろう。という魂胆。

ナイスアイデア、たかゆきくん☆

 

 

 

とにかく、そんなこんなで夜8時半。

今日の僕とノリヒサは、昨晩とは違い、「一万円」を儲けるという確固たる目的を持って、ここ中洲にやって来た。

昨日の場所は誰か違う人が歌っていたので、今夜は自分なりに人通りが多そうな場所を探して、そこで準備を始める。

まず、近くの酒屋からビール瓶の空ケースを拝借してきて、それを裏返しにしてイスの代わりにし、開けたギターケースの内ぶたには、お昼に書いた「大阪から来ました。どうぞお気軽にリクエストしてください。」という大きめの紙を貼り、その横に「リクエスト表」を立てかける。

そして最後に、ギターのチューニングをして、準備完了。

さあ、これでいよいよ、僕にとって人生で2回目の、そして昨日とは全く気合の違う本格的なお金儲け弾き語りのスタートである。

 

 

ただ、

スタートとはいっても、昨日のようにここでいきなり歌を歌い始めるわけではない。

実は、これも昨日外山さんから教わったノウハウのひとつなんだけど、

お金をよりたくさん儲けるには、ただやみくもに歌を歌い続けて人が立ち止まってくれるのを待つんじゃなくて、

初めは歌なんて歌わなくてもいいから、とにかくまず、道行く人を立ち止まらせることだけに専念して、

「おとうさん、一曲どうですか!」なんて掛け声と共に右手を前に突き出し、

それに反応して立ち止まってくれた人にだけ、リクエストを聞き、そこからようやく歌い始める。

そういったやり方のほうが、結果お金になりやすいというのだ。

 

なるほど、その方が相手にもちょっとした特別感を与えられるということだろうか。

ただ、そんな弾き語り、今まで見たこともないし、

なにより、歌も歌わず、そんなやり方でほんとにお客さんは立ち止まってくれるものなのだろうか…。(苦笑)

 

 

とにかく僕は、半信半疑ながらも、さっそくそれを実践してみることにした。

今日の中洲は、金曜日の夜ということで一段と活気に溢れ、目の前をひっきりなしに人が行き交う。

そんな中、道端のギターの兄ちゃんが、突然「一曲どうですか!」だなんてそこらの客引きみたいな声掛けをするのは、やっぱり思った以上にかなり恥ずかしい…。

モジモジしてなかなか踏ん切りのつかない僕は、横にいるノリヒサに助け船を求めた。

 

「どーしよー、ノリヒサ。やっぱり歌歌ってなかったら、恥ずかしくて声なんかよう掛けられへんわ。」

 

「けど、たかゆき氏、ここはどうせ大阪じゃないんやから、知ってる人もおらんし、そんな恥ずかしさなんて全く気にしなくてもいいんじゃないの?」

 

 

あ、そっか!ここは福岡やった。大阪じゃないんや!

しかも、ただの旅行中やし、なんも恥ずかしがることなんかないやんか。

そうや、旅の恥はかき捨てや!

インドの挨拶はナマステや!

サンキュー、ノリヒサ!

バイバイ、ガンジス!

 

 

そう吹っ切れた僕は、今度こそ大きな声で客引きを始めた。

 

「一曲どうですか!」

 

しかも、なるべく愛想良く見えるように、満面の笑顔で。

 

「そこのおとうさん、一曲どうですか!一曲聴いていきませんか!」

 

 

行き交う人々は、突然の声掛けに最初はビックリするものの、僕があまりにもの笑顔で呼びかけてくるので、立ち止まりはしなくてもみんな一様に笑顔で通りすぎて行く。

僕もそれに安心して、ますます愛想良く声を掛けていく。

さっきまでの恥ずかしさなんてどこへやらである。

ただ、ここで気を付けなければいけないのは、間違っても若者には声を掛けてはいけないということ。

外山さんが言うには、若者はお金にもならない上に、すぐにタムロしてしまうから、商売としては絶対に避けなければいけない人種らしいのだ。

僕はそれに気を付けながらも、さらに自分なりにお金を払ってくれそうな中高年を選別して(←やらしい!)、ピンポイントで声を掛けていった。

 

 

そうこうするうち、1,2分。

このピンポイント作戦が功を奏したのか、さっそくひとりのおじさんが立ち止まった。

 

「お、なんで俺に声を掛けてくれたと?

嬉しいけん、一曲歌ってもらおうかね。」

 

 

おお、もう来た!

なんでも恐れずに試してみるものである。

 

僕はさっそく「リクエスト表」をそのおじさんに見てもらい、その結果、井上陽水の「少年時代」を歌うことになり、

歌い始めると、間奏や2番なんかでは、ノリヒサが機転を利かせて、おじさんが退屈しないようにちょっとした世間話をしてくれてるなどして、

連携プレーで一曲歌い終えた。

 

すると、そのおじさんは、

「いいねえー、若者。頑張りんしゃいよ。」

などと、千円札をギターケースに入れて、笑顔で立ち去っていった。

 

 

…わお!さすがの外山理論!

いきなり、すげー!

 

ふむふむ。

確かに、歌を歌っていなくても、愛想さえ良くすれば人は立ち止まってくれるようだし、

その後にこういった形で歌を聴いてもらえれば、いくら当時の僕みたいなヘッポコな歌でも、その人だけのために歌ってるんだという付加価値が付いて、まとまったお金を入れてもらいやすいのかもしれない。

しかも今の僕には、飽きさせないためのノリヒサのサポートまで付いているんだから。

 

ふふふふ。

このやり方はほんとにいいかも知れん。

 

それに、この千円には、昨日の千円とはまた違った喜びがある。

自分から仕掛けていった千円というか、もらうべくしてもらった千円というか…。

とにかく、普段ぬるま湯の大学生活を送っている僕にとっては、すごく大きな意味を持つお金である。

 

 

 

 

この後、

気を良くした僕は、ますますコツをつかみ、次々とお客さんを立ち止まらせ、歌以外にも、時には僕が時にはノリヒサが、大阪から来たことなどのたわいも無い世間話を織り交ぜつつ、

結局何人もの方から千円札を入れてもらうことができた。

しかもそれだけではなく、お客さんに歌っている最中にも、通りすがりの人達が小銭を投げ入れていってくれるものだから、

僕のギターケースの中には、どんどんお金が増えていき、昨日外山さんもやっていたように、あんまり多いとやらしいのでいくらかお金を隠すという作業までしなくてはならないほどになっていった。

 

そして、午前3時。

ようやくこの日の弾き語りを終えた僕たちが、人目を避けて数えた今日の儲けの合計が、28,000円なんていう(当時の僕にとっては)とんでもない金額だったのである…。

 

 

 

ただ、

開始から数時間の時点でも、僕はもうすでに感づき始めていた。

今日の大目標である「一万円」という金額はあっというまに超えてしまうだろうということと、

僕にはこのお金儲け弾き語りの才能がかなりあるんだということに…。

 

 

もちろん、外山さんから聞いたノウハウや、ノリヒサのサポートのおかげもあるのは重々分かっているのだが、

それ以上に、

僕の、八方美人を演じきれる性格や、人に対する洞察力、それに今までつちかってきた弾き語りに対する慣れや工夫など、

とにかくそういうあらゆる面が、この弾き語りでのお金儲けというものに、がっつりハマっているということを感じたのである。

 

ただそれは、だからといって、すぐにこれを仕事にしようなんて大げさなものではなくて、

なんとなく心の奥でそういう事を感じたという程度のことなんだけども…。

 

 

とにかく、

今日一日の弾き語りを終えた僕は、今までのバイト終わりなどでは決して味わったこのとのない、とても心地よい疲労感と何ともいえない充実感に包まれていた。

 

つづく…。

 

P.S.

相変わらず、細かい話を詰め込みすぎで、全然前に進みませんね。(笑)

けど、今はせっかくの「本編じゃないよ編」なので、書くのがしんどくならない程度にほどほどに小分けにしてでもなんとか完結させたいと思っています。

 

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「芽生え」

|

2009年10月 6日 (火)

芽生え

「書を捨てよ、ギターを持って町へ出よう」からの続き…

 

「ノリヒサに色々手伝ってもらったとはいえ、まさかこんな結果になるとは夢にも思わんかったなあ。

もしかして、俺は自分のすごい才能を発見してしまったのかもしれんわ…。」

 

「そうやね。

けど、だからってたかゆき氏までこれで生活するとか言い出さんでよ(笑)」

 

「あははは。さすがにそれはないわ(笑)」

 

午前3時。

今日の弾き語りを終えた僕が、ノリヒサとそんな談笑をしていると、

どこからか、ギターケースを手に持った外山さんが現れた。

 

「お、やっぱりいたね。

今日もやるっていってたから、今ぐるっと一回り探してたところなんだよ。」

 

「わー、外山さん!

探してくれたなんて、わざわざありがとうございます。

外山さんも、今終わったとこなんですか?」

 

「うん、そうそう、さっき終わったとこ。

いやー、今日は金曜だから人多かったでしょ。

どう、たかゆき氏(ノリヒサの影響で昨日から外山さんもそう呼んでる)は儲かった?」

 

・・・・・・・・・。

僕は一瞬戸惑った。

ここまで儲けてしまうと、これは言っていいものなのか、どうなのか…。

 

「…え、ああ、まあそうですね。

外山さんはどうでした?」

 

「え、僕?

僕はねえ、金曜だから2万3千円くらいだったよ。」

 

…外山さんが2万3千円。

どうしよう、やっぱ言われへん…。

 

「で、たかゆき氏はいくらだったの?」

 

「…えっと、まだ数えてないんでよく分からないんですけど、多分、1万8千円くらいかな。

とにかく、外山さんに教えてもらった通りやったら、めっちゃ儲かりましたよ!

すごいんですね、この弾き語りって。」

 

「そうなんだよね、もう暮らせちゃいそうでしょ。(笑)

1万8千円ってことは、たかゆき氏も才能あるのかもね。」

 

中途半端な嘘をついてしまった僕は、なんだか複雑な心境になっていた。

ちゃんとした金額を言って、もっと褒めてほしいような、やっぱり言っちゃいけないような…。

(今考えると、外山さんに嘘つく必要なんか全くなかったんだけど…。笑)

 

「ところでさ、2人とも今日はウチに泊まりにきませんか?」

 

「え?」

 

僕とノリヒサは顔を見合わせる。

しかし、ノリヒサの答えを聞くまでもなく僕は即答していた。

 

「いいんですか!是非、是非!!」

 

だって、さっきノリヒサにはああ言ったものの、実際には、僕のこの弾き語りに対する興味と、さらにこの弾き語りで生活しているという外山さんに対する興味は、昨日にも増して強大なものになっていたから…。

 

 

 

外山さんの家は、中州から車で15分くらいの小高い山の中腹にあった。

外山さんは原付だったので、僕たちは外山さんの先導でタクシーでそこへ向かった。
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(お金ならたんまりあるから。笑)

 

外山さんの部屋は間取りが2Kで、お風呂はついておらず、家賃は27,000円。

しかし、その割にはかなり広く、部屋に上がると、さすがに文筆業もされてるだけあって、そこには大量の本や書籍が並んでいた。

他にもマンガ本やビデオやCDもたくさんあり、ほぼ弾き語りだけでほんとにこんなちゃんとした生活が出来るんだなと感心したと同時に、まだあんまりものを知らない好奇心旺盛な20歳の僕は、そこにあるもの全てに興味を持った。

 

寝るまでの間、僕は、今日弾き語りであったこと、思ったことなどを全て話し、外山さんからもさらに詳しい弾き語りに関することや、今までの生活や人生のことなどたくさんのことを話してもらった。

外山さんの話す内容は、改めて僕にとってカルチャーショックなことばかりで、僕は熱に浮かされたように夢中になってずっと外山さんの話に耳をかたむけていた。

 

 

 

そして、あくる日の土曜日。

この日の夜になると、僕たちはもう当たり前のように外山さんと一緒になって中洲に弾き語りに出かけた。

 

そしてまた、昨日と同じように儲けてしまう僕。

この日の弾き語りを終えた僕は、ノリヒサにこんな宣言をした。

 

「ノリヒサ、すまん。

せっかくお前が誘ってくれた福岡旅行やけど、俺、もうお前がイギリスに留学してしまう2週間後までずっと夜はこの弾き語り続けようと思う。

なんか、こんなに楽しくて、ワクワクすること初めてやねん。

しかも、それがこんな大金になるなんて…。

こんなの、ここ中洲やからこそ成り立つことなんやと思うし、もしかして一生味わわれへんことかもしれんから、後悔せんように福岡に滞在してる間だけは、出来る限りのことしたいねん。

だから、これからはノリヒサは付いてこんでいいから、俺一人だけでも中州に通うわ。

ごめんな。」

 

「たかゆき氏がそこまで言うなら、分かった。

けど、一人でなんか行く必要ないよ。

せっかくやから、俺も最後まで付き合うよ。」

 

 

こうして僕たちは、結局ノリヒサが出発するまでの2週間、(中洲に人が少ない)日曜日と雨の日以外は毎晩のように中州に出向いてお金儲け弾き語りを続けたのである。

そして、あっというまに2週間という日は過ぎていった…。

 

つづく…。

 

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「青春狂騒曲」

|

2009年10月11日 (日)

青春狂騒曲

この「始まりの物語」、随分連載期間が長くなっちゃってるので、一旦ここで話を整理してみましょう。

 

まず、今僕は20歳、大学2回生。

けど、無難に就職する気のない僕は、大学に在籍していることに全く意義を感じておらず、これからどうしようかなあっと、日々もんもんとしているわけです。

そんな夏休み。

福岡に住む3つ年下の親友ノリヒサが、2週間後にイギリス留学が決まっていて、それまでの間、せっかくだから僕に福岡に遊びに来ないかと誘ってきます。

そもそも大学生の夏休みというのは、丸々2ヶ月と異様に長いので、

じゃあ今年の夏休みは、初めの2週間は福岡で羽を伸ばし、残りの1ヶ月半はお金もないだろうから大阪に戻ってバイトにでも明け暮れようということに決まるわけです。

そして僕は、2週間の観光気分で、ここ福岡にやって来た、と。

はいみなさん、ここまではいいですね?(←先生気分。笑)

 

しかし、初日の夜から、僕は、まるで運命に導かれるように、外山恒一さんという人物に出会ってしまいます。

この人はなんと、ほぼ路上弾き語りの儲けだけで生活しているというのです!

最初は半信半疑ながらも、僕はこの人に強い興味を持ちます。

そして、自ら教えを乞い、さっそくこの夜、僕もこのお金儲け弾き語りというものを試してみます。

すると、ほんとに弾き語りでお金が稼げるではないですか!!

今までただの趣味程度に弾き語りを続けていた僕にとって、これはとんでもなくショッキングな事実でした。

しかも、少しコツをつかんだ僕は、2日目には、普通のバイトでは到底稼げないような大金を稼いでしまいます。

こうなってくると、僕のお金儲けに対する熱はもう止まりません。

結局、2週間の福岡旅行は、ノリヒサまでも巻き込み、ほとんどこのお金儲け弾き語りだけに費やされることになってしまったのです。

しかも、一度走り始めた20歳の僕は、これだけでは終わりませんでした…。

 

さあ、そこまで分かってもらった上で、続きをどうぞ!!

(って、たったこれだけのことを、何年もかけてダラダラ書き続けてたこのブログって、ある意味すごい…。笑)

 

 

「芽生え」からの続き…

 

2週間後、ノリヒサがイギリス留学に出発する前日。

ノリヒサのマンションでは、僕が意を決して再びノリヒサに無茶なお願いをしていた。

 

「なあ、ノリヒサ。

このマンションって、ノリヒサが出て行った後、どうなんの?」

 

「え?

えっと、10月の中頃に親父が福岡に帰ってくるから、それまでは多分空き家やで。

何で?」

 

「そっか。

えっとな、今からまた無茶なお願いするけど、これはあくまでもお願いやからダメでも全然かまへんし、とりあえず聞くだけ聞いてくれ。」

 

「うん、何、何?」

 

「えっと、ほんまやったら、ノリヒサももう日本から出発するわけやから、予定通り俺も大阪に帰るべきやと思うねんけどな、

この前も言ったみたいに、俺、こんなに楽しくて充実してることって生まれて初めてやねんやんか。

そんで、このまま帰ったら俺な、大学始まる10月まで消化不良の気持ちだけが残って、結局何にも手につかんとバイトなんかもほとんど出来へん気がするねんな。

だから俺、やっぱり大学始まるギリギリまでの間、もう自分が納得するまでこの弾き語り続けてみたいねん。

もちろん、お金がむっちゃ儲かるっていうのもあるしな。」

 

「うん。」

 

「そんで、もしよかったら、鍵は後でちゃんと親父さんに郵送するから、10月までここに俺を住まわせてくれへんやろか。

もちろん、めっちゃ自分勝手なお願いやっていうことは分かってるし、無理やったら無理で全然かまへんねん。他に方法考えるから。

ただ、聞いてみるだけでもいいから、一回親父さんに聞いてもらわれへんやろか。」

 

けど、ここって、もうすぐ電気とガスが止まっちゃうで…。」

 

「え、そうなん?

…いや、全然かまへん。どうせお昼は明るいし、夜は寝るだけやから、懐中電灯一個あればなんとかなる。」

 

「…うーん、そっかー。

まあ、俺も今までたかゆき氏には散々世話になってるし、たかゆき氏がそこまで言うなら、一回親父に聞くだけ聞いてみてあげてもいいけど。」

 

「ほんまか!ノリヒサ、ありがとう。」

 

 

そして、なんと、この後本当にお父さんの了解を得ることが出来た僕は、結局それから9月一杯までの約1ヵ月半、ほんとにこのマンションを一人で使わせてもらえることになったのである。 

(しかしまあ、どこまでずうずうしい20歳なんだろう…。苦笑)

ただ、

次の日、僕がノリヒサを空港まで見送りに行った時、出発直前になって彼が真剣なまなざしで言った言葉が今でも僕の心から離れないでいる…。

 

「なあ、この前は冗談で言ったけど、2年後に俺が日本に帰って来た時に、たかゆき氏までが外山さんみたいに弾き語りで生活してるっていうのだけはほんまにやめてな。」

 

「なんでそんなふうに思うねんな。そんなことあるわけないやん。」

 

「そうかなあ。俺はそれだけが気になる。」

 

 

 

 

それからの1ヵ月半。

それは、まさしく青春の日々と呼べるような輝いた毎日だった。

 

もちろん、電気の通っていない広いマンションで一人で過ごすというのは、少しは寂しいことだったんだろうけど、

僕にとっては、それよりも旅の高揚感の方が上回っていたし、なにより、日々の弾き語りで儲かるお金とその興奮が高揚感を倍増させていた。

やっぱり、よっぽどこのお金儲け弾き語りというものが、元来僕の肌に合っていたんだと思う。

それに、外山さんのようにこれが仕事というわけではなかったから、責任感や焦りなんてものも感じる必要がなかったし、たくさんのお客さんとの交流もすごく楽しかった。

 

 

そして僕は、この弾き語りを続けるうちに、外山さんともどんどん仲良くなっていき、マンションに帰らずに外山さんの家に入りびたることも多くなっていった。

外山さんの家は、変わった人達の出入りも多く、サブカルチャー的なものもたくさん置いてあったから、若かりし僕にとっては、非常に刺激的で興味深い場所だったのである。

ボブ・マーリーを生まれて初めて聴いたのも外山さんの家だし、ニール・ヤングを初めて聴いたのも外山さんの家だった。

僕の大好きなマンガ、「迷走王ボーダー」を初めて読ませてもらったのも外山さんの家だ。

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もちろん、弾き語りで覚えるべきフォークソングもたくさん教えてもらった。

そうして僕はレパートリーも少しずつ増え、ますます弾き語りが楽しくなっていくのだった。

 

 

季節が夏だというのも良かったと思う。

朝まで暖かい中州には、常に色んな人が集まり、お客さん以外にもたくさんの出会いがあった。

いつも決まって「とんぼ」をリクエストする客引きの兄ちゃんや、とにかく弾き語りを毛嫌いする似顔絵描きのおっちゃん。

優しい人情にもたくさん出会った。

いつもタダでホットドッグをご馳走してくれた移動式ホットドッグ屋のおばちゃん。

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いつもトイレを快く貸してくれた博多ラーメン屋のおばちゃん。

最終日には、わざわざ僕のために差し入れまで持って来てくれた。

Ss_016

いつも路上で詩を書いていた2人の女の子。

この子達も、9月の最後には肌寒いからって、上着を持ってきてくれてそれをくれた。

Ss_022

 

 

 

とにかく、

合計2ヶ月のこの福岡滞在は、お金儲け弾き語り以外にも、ほんとにたくさんの刺激的な出来事があり、僕の頭の中には強烈に楽しいイメージだけがインプットされたのである。

もちろん、今まで手にしたことのないような大金と共に…。

 

 

僕が大阪に戻る日。

高速バス乗り場には、外山さんがサプライズで見送りに来てくれていた。

そしてまた、こんな話をするのだった。

 

「せっかくだから、大阪に戻ったら、たかゆき氏もこの弾き語りで生活していけば?」

 

「もー、外山さんまでそんなこと言わないでくださいよー。

僕にはそんな気ないですってば。(笑)

これは、ただのひと夏の楽しい思い出なんですから。」

 

 

…20歳のたかゆきくん、

君にはよっぽど自分の未来を見る目がなかったんだね。(苦笑)

 

 

大阪編につづく…。

 

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「覚醒」

|

2009年10月20日 (火)

覚醒

「青春狂騒曲」からの続き…

 

さて、ひと夏の楽しい思い出として終わるはずだった1997年の夏休み。

しかし、大阪に帰り、いつもの大学生活に戻っていた僕には、やはり日常のどこかに物足りなさを感じ始めていた。

大学自体に興味が無かったのは、相変わらずいつものことなんだけど、

授業をサボって友達と遊んだりしていても、どうしても何かが足りないというか、胸の中で大事な何かが抜け落ちているようなちょっとした喪失感のようなものを感じてしまっていたのである。

僕にとっては、先日までの福岡旅行が、それほどまでに強烈なものだったということだろう。

 

しかも僕は、今まで散々お金のことで頭を悩ませてきたというのに、

ヘタにお金を持っている今となっては、お金について妙に楽観的になってしまい、

周りの人間にオゴりまくるなど、後先を考えずに、とにかくやたらと散財しはじめた。

 

さあ、

そうなってくると、いよいよ僕のダメ人間人生のスタートである…。(笑)

 

 

ダメ、その1。

 

この頃の僕は、以前のように休みの日に駅前で歌を歌おうなんて気持ちも無くなっていた。

生意気なことだが、やっぱり弾き語りというものが、場所とやり方によってはああいう風に大金につながるんだということを知ってしまった今では、もう今までのような趣味範囲の弾き語りに興味を持てなくなってしまったのだ。

しかも、感じが悪いことに、

同じような理由で、時給800円などのアルバイトなどですら僕にはする気が無くなってきていた。

 

ああ、ほんとに、ダメ人間である…。

 

 

 

ダメ、その2。

 

それから約1ヶ月ほどたった、10月の終わり。

この頃になると、僕の日常生活に対する物足りなさはますます大きくなり、結局はあの福岡での充実した毎日に思いを馳せるばかりになっていた。

さらには、お金も段々と減りはじめ、やっぱり何かしなければということになる。

 

しかし、そこで思い付いたのは、

案の定、

大阪でもあのお金儲け弾き語りをやってみようということ。

(まあ、「始まりの物語」と言うぐらいだから、この流れはごく当然のことかもしれないが、それにしても分かりやすすぎるダメな展開…。笑)

 

もちろん、中洲ほど儲かることは無いだろうけど、

とにかくバイト感覚でもいいから、大阪でもあの弾き語りが出来ないかなと思ったのである。

 

 

そして、やはりお金を儲けるなら、場所は飲み屋街がいいだろうということで、

僕は数日かけて、友達と2人で大阪のめぼしい飲み屋街をぐるぐると回った。

 

その結果、第一候補として見つけたのが、ある飲み屋街のとある一角だった。

ここは大阪でも有名な飲み屋街で、僕が見つけた場所はそのメインストリートの出口付近だったから、すごく人通りが多かった。

ここなら、ある程度お金を儲けれそうである。

 

ただ、この場所で気になったのが、5,60メートル先にある派出所と、ヤ○ザさんの存在。

 

まず、派出所の方から言うと、

今までお巡りさんに弾き語りを止められたということは、もちろん何度かある。

けど実は、お金儲けをしていた中州では、結局一度もお巡りさんに止められなくて、

その辺がよく分からないところなんだけど、

それでも、さすがに派出所のこんな近くで弾き語りやらお金儲けやらをすれば、やっぱりすぐに止められるかもしれないと少し心配になったのである。

 

そして、ヤ○ザさんの方は、

この飲み屋街は、僕にとって、全てヤ○ザさんが取り仕切っているというイメージが昔からあって、

こんな場所でお金儲けをしていることがバレたら、そりゃもうヤバイことになってしまうんじゃないかと、こっちの方は結構本気でビビっていたのだ。

 

しかし、

若かりし僕の特徴である、「何でも一度やってみないことには分からない」という性格はここでも健在で、

まあ、もし無理だとしたら、他の場所を探すなり、やっぱり普通のバイトを始めるなりすればいいだけだという結論に至り、

結局、僕は試しに一晩だけ、この場所でお金儲け弾き語りをすることになったのである。

 

しかも、完璧主義でもある僕は、

同じ止められるにしても、せっかくやるなら万全を期そうということで、

少しでもお金を儲けるために、中州では使わなかったマイクやアンプまで使うことにした。

 

ほんと、走り出したらどこまでも止まらない若者である…。

おお、こわ…。

 

 

 

ダメ、その3。

 

しかし、ここ大阪でも、僕は予想以上にお金を儲けることができた。

 

まず、この日に限って言えば、あんなに近くにいるはずのお巡りさんや、怖いヤ○ザさんに止められるなんてことも全く無かったし、

演奏面においても、やっぱりマイクやアンプを使ったことが功を奏したようで、

音が大きいので、先にお客さんを止めなくても自然とあちらからやって来てくれることも多くて、

そのおかげで、よりギターや歌に集中することができた。

そしてなにより、僕も数ヶ月前よりは随分フォークソングのレパートリーが増えたので、

この、若者がフォークソングを歌っているという物珍しさもお金につながった。

 

どうやら、

中州みたいな観光地でしかお金はたくさん儲からないというのは、僕の勝手な妄想だったようで、

こういう年配の人が多い飲み屋街であれば、やり方さえ工夫すれば、どこだってお金は稼げるようである。

 

 

さて、

この事実で、僕は、この弾き語りに対する自信をますます深めたわけなんだけど、

同時に、この頃から僕は、だんだん狩野英孝ばりの

「勘違い自惚れ野郎」にも変貌していってしまう…。

 

 

 

ダメ、その4。

 

大阪初日での成功に気をよくした僕は、それから週に1,2回ぐらいずつ、その場所で弾き語りを続けるようになる。

言っても、この時の僕は大学生という身分だから、

週1,2回ぐらいの弾き語りでも、十分に普通のアルバイト以上の小遣い稼ぎになったのだ。

しかも、あれからも不思議と1回も止められることがなく、怖いくらい順調に弾き語りができた。

もう僕は、福岡に続き、この大阪での弾き語りも楽しくてしかたなくなっていった。

 

しかし、ここからが問題で、

実は、大阪でマイクやアンプを使うようになってから、僕はお客さんに「うまい、うまい」などと褒められることが多くなってきていて、

さらに、いつもお金もたくさん儲かるものだから、

「あれ?
今まで、工夫だなんだって言ってきたけど、
もしかして、俺って、音楽の才能とかもあるんじゃないの…?」

なんていう、若さゆえの恥ずかしい勘違いまでもが始まってしまったのである…。

 

キャー!誰か彼を止めてあげてー!!

スタッフゥ~、スタッフゥ~!!

 

(注:もちろん実際は、音楽の才能なんてほとんど関係ない。
この頃はまだ、今まで体感してきたように、色んな工夫が功を奏して、お金を入れてもらっていただけである。)

 

 

 

ダメ、その5。

 

さあ、そういう面においても、走り出したら止まらない僕。

 

とにかく僕は、大学に通いながらも、夜たまに歌うという、そういう生活を3ヶ月ほど続けた。

そして、その間にも、もちろん妄想を肥大化させていく。

 

 

わー、やっぱり俺の弾き語りは儲かるなあー。

しかも、相変わらずめっちゃ楽しいし。

いや、

マジで俺は音楽の才能あるんかもしれんな。

今まで散々将来のことについて悩んできたわけやし、

こーなったら、本気で歌手でも目指しちゃおっかなー。

もしかして、斉藤和義みたいになっちゃったりして…。

フフフ。

 

…ん、待てよ。

じゃあ、

さっそく大学なんか辞めちゃって、

とりあえずほんまにこの弾き語りだけで生活始めちゃおっか!

そしたら、もうオカンにお金の負担かけることもなくなるし、

弾き語り以外の時間は、曲作ったり色んな音楽活動に専念できるやん!

おー、スゲー!

そんで、後のことは、後のことで、それから考えたらええねん!

うん、そうや、そうや。

こんなん、きっと若いうちしか出来へんわ!

 

ちょっと、待てよっと、

これだけで生活ってことは、週4、5回はやるとして…、

わお!

ひと月でめっちゃ稼げるやんか!!

これだけあったら、余裕で贅沢な一人暮らしできるで!

スゲー、スゲー!!

この仕事やったら、時間もたんまり出来るやろうし。

うわー、そうしよー、そうしよー。

気分爽快、ナイスガイ!OK~!

 

 

…そして、

僕の妄想劇場は続いていく。

 

 

 

P.S.

ほんのチョビっとだけ調子が悪かったので、更新が少し開いちゃいました。

けど、調子の悪さや波も、以前に比べたら格段にマシになっているので、おそらく全快まではあと少しです。(^-^)

ほんと、これも、いつも温かく見守ってくださってるみなさんのおかげだと思っています。

いつもほんとにありがとうございます。

 

さて、

長かったこの「始まりの物語」も、ようやく次で終わりです。

なんだか、同じような流れの繰り返しで、話が随分単調になっちゃってますが、

これは、どうしても残しておきたい僕の人生の記録でもあるので、

みなさん、どうか後1回だけお付き合いくださいね!

 

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「幸福な朝食 退屈な夕食」

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