そして僕は途方に暮れる
地下の薄暗い会場に入ると、そこは懐かしい顔や知らない顔でごったがえしていた。
同級生の2次会だけあって、ほとんどが同世代の人達のようだ。
僕は知り合いとひと言ふた言挨拶を交わし、なるべく目立たないように端の方のテーブルに腰掛けた。
しかし、すぐに入口から昔の友達数人が入ってきて、僕の隣の席に陣取ってしまう。
「おー、たかゆき!久しぶりやなあ、元気しとったか?」
「おう、まあぼちぼちな。」
「仕事の調子はどうや?まだアレ続けてんのか?最近景気悪いんちゃうんか。」
「あ、うん。まあ何とかぼちぼちな…。」
「けど、お前まだあんなこと続けていくつもりなんか?将来どうするつもりやねん。」
「え、まあ、そのうちな…。」
そんな中、ウェイターが僕達のテーブルにやって来て、飲み物のオーダーを尋ねる。
みんなが口を揃えてビールを注文する中、僕だけはジンジャーエールを注文した。
(今服用している薬の関係でお酒は止められているので)
「え?なんでや。お前飲めへんのか?」
「あ、ちょっと今お酒やめててな…。」
「なんやー、ノリ悪いのー。」
やがてパーティーが始まり新郎新婦が入場すると、会場は人々の笑顔や歓声に包まれる。
僕はというと、人の多さと目の前の会話の波に押されて、もうすでに参りはじめている。
家を出るまでの調子の良さがまるで嘘のようだ。
(もちろん、お祝いしたい気持ちは重々にあるんだけども…。)
20分後、遠くでは知らない人がマイクに向かって挨拶をしていて、こちらのテーブルでは新婦の女友達も含め、ますます会話に花が咲き、そこらじゅうに言葉が飛び交っている。
「この前、うちの子供が熱出してさあ・・・」
「もう婚活も疲れてきたわあ・・・」
「俺、今度車買い換えんねん・・・」
「カズコんとこ、もう3人目生まれるらしいなあ・・・」
「これ終わったら、いいキャバクラ知ってるから、そこ行こや・・・」
「お前んとこ、家のローンってどうしてんの?・・・」
僕は会話の邪魔をしないように適当に相槌を打ちながらも、改めて時の流れの早さや一般社会とのギャップ、さらには自分がここ10年以上何も変わっていないことへの後ろめたさや情けなさを感じていた。
ああそっか、俺ってもう今年で33歳やねんなあ…。
それやのに、何してるんやろう、俺だけ…。
そんなことを考えているうちに、僕は場を盛り上げるどころか、どんどん具合が悪くなり、うつむいてしまうことの方が多くなっていった。
「なんや、お前、今日暗いぞ。大丈夫か?」
「お、おう、なんか今日体の調子が悪いみたいやわ。風邪でもひいてるんかな。
ちょっとトイレ行ってくるわな。」
そう言って僕は、逃げるようにトイレに向かう。
トイレに入って少しホッとしたのもつかの間、今度は洗面台の鏡に映る自分の姿を見て悲しくなってしまった。
思った以上にやつれて、老け込んだ僕がそこには居たから…。
近頃はずっと、こうしてまじまじと鏡を見るなんてことも無かったから、その変化に驚いたのだ。
ああ、俺もやっぱりほんとに歳をとってしまったんだなあ…。
頭がクラクラして、気分が悪くなり、だんだん立ってることすら辛くなってきた。
けど、あの席に戻って後2時間近くも過ごすなんてことも、もう想像できない。
ダメだ。
限界だ。
トイレを出ると、僕は席には戻らず、一直線に歓談中の新郎新婦のもとに向かい、小声で新郎に、
「ごめん、今俺風邪で体調が悪いから、今日はこれで帰るわ。
結婚おめでとう。またゆっくりお祝いするわな。堪忍な。」
とだけ告げ、そのまま会場を後にした。
地上に出ると、そこは夕方の心斎橋。
こちらも人であふれかえっている。
僕は一度だけ大きく深呼吸をすると、人ごみを縫うようにゆっくりと歩きだした。
さあ、どうしよう。
頭がうまく働かない。
帰らなきゃいけないのは分かってるんだけど、タクシーを呼び止めることすら今はわずらわしい。
とにかく、あてもなく歩いた。
しばらくすると、あのテーブルにいた一人の友達から携帯が鳴った。
「あ、もしもし、たかゆきか?お前どこ行ってん。」
「あ、ちょっと、具合が悪いから、今日は帰るわ…。」
「え?どうしてん、お前。まだ始まったばっかりやぞ。大丈夫か?」
「うん、ごめんな。また連絡するわ…。」
電話を切ると突然、強烈な虚しさと孤独感が僕を襲った。
何してるんやろう、俺…。
何してるんやろう…。
涙がじゃんじゃん出てくるので、それをぬぐいながら、それでも僕は人ごみの中をフラフラと歩き続けた。
そしていつのまにか降り出した雨をきっかけに、僕はようやくタクシーを止めて家路に着いた。
家に戻ると僕は、そのままスーツ姿でベッドに倒れ込んだ。
そして眠った。
ただ、眠った。
P.S.
みなさん心配ご無用、大丈夫です。(o^-^o)
もういっぱい寝たから。
今回は予告もしてたし、ただ記録として残しておきたかっただけです。
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