「今」
半年ほど前にギターを購入して、僕がたまにそれを教えている10年来の女友達がいる。
昨日は彼女がたまたま近くに用事があったということで、僕の家に夕食の誘いにやって来た。
ここ数ヶ月病気(うつ)の影響でほとんど人と会うことはなかったのだが、彼女はすべての事情を知っている親友なので特に気を遣うこともない。
しかもここ2,3日、僕は随分と調子がいい。
回復してきてるんじゃないかと少し希望が持てるほど。
だから僕は、いつもにも増して気軽に彼女を迎え入れた。
外で夕食を食べた後、彼女は僕の家で少しだけギターの練習をしていった。
彼女が今練習しているのは、あの斉藤和義さんの「おつかれさまの国」だ。
彼女の練習を聞いていると、僕もほんの少しだけ歌を歌いたいという欲望が沸いてきたので、ギターを手に取ってみた。
ギターを触るなんて、約2ヶ月ぶりのことだ。
あれから僕は、歌を歌うことはもちろん、ギターすら触ることができなかったのだ。
胸がドキドキした。
この10数年、こんなに歌を歌わなかったり、ギターを弾かなかった期間は無い。
「せっかくやから、俺もなんか一曲だけ歌ってみるわ。」
彼女も知ってる曲をと思い、僕も斉藤和義さんの「僕の見たビートルズはTVの中」を選んだ。
「声」、出るのかなあ。
一曲歌い切った。
「いいじゃん。」
彼女は言う。
「そっか、いいか。」
もちろん、家の中なので全く本意気で歌ったわけじゃないし、参考にはならないかもしれないが、なんとか最後まで「声」は出た。
「じゃあ、わたし帰るね。」
「うん。」
しかし彼女を駅まで送りに行く途中、急に僕の胸がざわつき始めた。
「…なんか、胸がざわつく。」
「え?
…わたしがたかゆきのペースを引っかき回しちゃったからかなあ。」
「いや、そんなんじゃない。
ただ、歌を歌ったからやと思う…。」
なんとか彼女を送り届けた後、僕は家に戻って結局2時間眠り込んでしまった。
調子がいいと思っていたのに、久しぶりに一曲歌っただけで眠り込んでしまう僕。
ほんとに仕事復帰できる日は来るんだろうか。
明日は10日ぶりの心療内科の予約日。
あれからもう2ヶ月近くたった僕に、先生は何を助言してくれるのだろう。
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