コンビニ
続き…
何とかコンビニにたどり着いた僕は、店内を見わたす。
正月の夜11時すぎ。
お客はいない。
店内には顔見知りの店員さんが一人。
彼の名前は「キン」さん。
30代中ごろの中国人で、家族で日本に出稼ぎに来ている。
僕はほぼ毎日のようにこのコンビニを利用しているので、彼とは何度もしゃべったことがあり、お互いのことを良く知っている。
「いらっしゃいませ~。」
彼は僕に気づき、まだ少しカタコトの発音で、笑いかける。
僕はその言葉には反応できず、うつむいたまま少し店内を歩き回る。
少しの間歩き回ったが、やはり体がおかしい。
立ってられない感じになってきた。
あかん、だめや。
僕はたまらず、キンさんのもとに駆け寄る。
キンさんはどうやら僕のただならぬ雰囲気を察してか、心配そうな表情を顔一面に広げた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです、キンさん…。ちょっと立ってられそうもないんで、どっか座らしてもらってもいいですか…?」
「あ、はい、じゃあ、こっちに…。」
そう言って彼は僕をレジの奥の従業員専用通路に連れて行ってくれ、パイプ椅子を用意してくれた。
従業員通路にはもう一人顔なじみの中国人の店員さんがいて、状況を察した彼が、キンさんの代わりにレジに向かってくれた。
パイプ椅子に腰掛けて少しホッとした僕は、その時初めて自分がものすごい量のあぶら汗をかいていることに気がついた。
「どうしたんですか、何があったんですか?」
恐る恐る、心配げに尋ねるキンさん。
僕も何とか息を整えながら、小さな声で答える。
「い、いや、僕も何だかよく分からないんですけど、家に一人でいたら急にものすごい苦しくなって、倒れてしまいそうで怖かったんで、こ、ここに駆け込んできたんです…。
す、すいません、仕事の邪魔しちゃって…。」
「それは大丈夫ですけど…。
救急車呼びましょうか?」
「い、いや、もう少し様子見てみます。
それで、ほんとに駄目そうなら、その時救急車呼んでもらえますか…。」
「はい、分かりました。
じゃあ、しばらくここでゆっくりしていてくださいね。」
「あ、ありがとうございます。」
キンさんが仕事に戻る。
はぁ…。
しかし、これは一体何なんやろう?
僕は何かの大きな病気なんやろうか?
不安だ。
不安でしかたない。
あ…。
突然、手先がしびれてきた…。
過換気症候群である。
前にも一度少しだけ説明したことがあるが、僕は数年前から過換気症候群という持病を持っていて、情緒不安定な時やパニックの時などに、ごくまれに発症するのである。
この病気、症状としては、過呼吸によって呼吸が困難になったり、全身がしびれてきたりするのだが、対処法としてペーパーバック療法というのがあって、ビニール袋や紙袋などを口に当てて自分の吐いた二酸化炭素をもう一度体内に取り込むことによって症状が和らぐのだ。
僕はそこにあったレジ袋を一枚もらって口元にあて、ゆっくりと深呼吸をくりかえした。
すーはー、すーはー。
少し症状がおさまる。
しかしそう思ったのもつかの間、しばらくするとすぐにあの不可解で強烈な苦しさがまた体中を駆け巡った。
あかん。
もう、限界や…。
このままじゃ、同じ事の繰り返しや…。
僕は、声にならないような声でキンさんをもう一度呼ぶ。
「きゅ、救急車、呼んでください…。」
それに気づき、キンさんが駆け寄る。
「はい、分かりました!」
5分くらいで救急車はやって来た。
救急車が到着するまでの間、キンさんはずっと僕の手を握りしめていてくれて、僕はただ意識を失ってしまわないようにという事だけを考えていた。
救急隊員がやって来たことで、少し落ち着きを取り戻した僕は、言われるがままに体温を計ったり、彼らにゆっくりとこれまでの症状をいちから説明した。
そして、それらを総合して救急隊員が出した結論に、正直僕は驚きとショックを隠せなかった…。
それは、今回は物理的な病気とかではなく、
僕は「精神的な」病気である可能性が極めて高い
と、いうことだった。
精神的な病気…。
なかなかすぐには受け入れがたい言葉だ。
じゃあ、さっきまでの苦しみは、物理的なものではなく、精神的なものからくる「まぼろし」みたいなものだというのだろうか?
けど確かに、救急隊員が到着してから、苦しみはだいぶ治まっている気もする…。
彼らがやって来たことで、冷静になって、現実に戻ってきたということなのだろうか。
もう、何がなんだか分からない。
困惑する僕に、さらに救急隊員は付け加えた。
「深夜に、救急で開いている精神科の病院は無いから、明日の朝にでもすぐに近くの精神科の病院に診てもらってください。今、私達に出来る事は何も無いので。」
そ、そう言われても…。
僕
「100%精神的なものなんですか…?他の可能性は考えられないんですか?」
隊員
「はい、おそらく。
じゃあそこまで言うなら、一応、念の為にでも、緊急の内科の先生のところまで救急車に乗っていきますか?」
「いや、そういう言われ方すると…。」
「どっちにするんですか。
私達には決めれないので、そちらではっきりと決めてください。」
「も、もういいです…。
明日まで我慢して、朝イチで病院に行きます…。」
「はい、分かりました。
じゃあ、我々はもう行きますね。」
そう言い残すと、彼らはそそくさとコンビニから撤退していった…。
しかし、仮にあちらが言うように、これが精神的なものなのなら、僕は(精神的に)相当マイっているはずなのだから、もう少し優しい物腰の言い方はなかったのだろうか。
あれじゃまるで、「こんなことでいちいち救急車を呼ぶなよ。俺達も暇じゃないんだから。」、という感じにすら映る。
そうはいってもまあ、この時の僕にはそんな事を考える余裕も無く、ただキンさんに見守られたまま、従業員通路のパイプ椅子にへたり込むことしかできなかった…。
キンさん、すみませんでした…。
この後僕は、一人で部屋に帰るのは怖かったので、親友を携帯で呼び出し、迎えに来てもらうことにした。
親友がコンビニに到着するまでの約20分間、頭の中には「精神的な病気」というフレーズが充満して、結局僕はまた何度も過換気症候群を発症し、もだえ苦しむのであった…。
そして翌日、僕は人生初の「精神科」なるものを受診することになる…。
つづく…。
P.S.
みなさん、おひさしぶりです!
ものすごい久しぶりの更新やのに、なんだこのとてつもなく暗いブログは…。(笑)
今回はあくまでも未来の自分の為に書き残しておこうとした文章(記録)でもあるので、みなさんすみませんね。
もう少し(後一回くらい)で、たぶん終わりますのでね。
あとちょっと、我慢してくださいね。(笑)
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